平凡と俺様
ポイ捨てはしちゃだめって言われなかった?
そのままそいつをじーっと観察していると、まだ長さは残っているのに煙草を指で弾いてふかふかの芝生の上にそれを落としてしまう。
まだ火のついているそれを奴は真っ白に磨かれたローファーの底で踏みにじると、何事もなかったかの様にポケットに突っ込んでいた手を取り出した。
その手には白い煙草のものだろう箱。
さっきまで煙草を持っていた手で中身を取り出そうとして、しかしもう空だったらしい。
そいつはイライラした様子でその箱を手のひらで握りつぶすと、あろう事かそれをポイッとそこらへんに投げ捨ててしまったのだ。
「おい、お前!」
気付けばそちらへと駆け出し、声を張り上げていた。
そのままスタスタとその場を去ろうとしている男が、めんどくさいとでも言いたげなゆっくりとした動作でこちらを振り返る。
遠目からでは分からなかったが振り返ったそいつはビックリするほどの男前で、でもそんなこと今関係ないんだ!
男前だって不細工だって平凡だって人間は人間だ。
「今、何やった?」
「は?」
「ポイ捨てしただろ!?」
そう喚く俺に、奴はそれがどうしたんだ?とでも言いたげな顔をしている。
どうしたもこうしたもあるかー!
「ポイ捨てはしてはいけませんって言われたことあるだろ?ていうか言われた言われなかったじゃなく、常識としてするんじゃないの。良心が咎めたりしない?それともそんな良心もないくらい腐った人間?違うだろ?少なくともこんな素敵な場所で散歩してるくらいだから、ちょっとくらいは花好きなんじゃん。なのにどうしてそれを踏みにじるようなことをするんだよ?ゴミ箱が近くにないからってそこらへんにゴミを捨てるな。それとも思わずゴミを捨ててしまうくらいむしゃくしゃすることあった?だったら俺が聞いてやる。初対面の奴に何が分かるんだって思うだろうけど、何も知らない方が見えてくることもあるだろ?ほら、何かあるんだったら言ってみなって。別に俺は怒ってるわけじゃないんだから、ん?」
「・・・」
機関銃のようにしゃべりだした俺に、目の前の男前はぽかんとした顔で。
男前はどんな顔しても男前だからいいよなぁ・・・って。
・・・・・あああああ!あー!また俺って奴は!
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