私立月見里学園高等部
黄土色の悲鳴再び
その声に騒がしかった生徒達は今までが嘘だったように静かになる。
未だちらちらとこちらに視線を向けてくる者はいたが、先程の先輩のようにどうこう言われるのはひとまず落ち着いたようで、ほっと息を吐いた。
まあ、正直半分以上何を言われたのか理解していなかったが、聞き取れた言葉の断片から判断してもいいことではないことは確かだったのだし。
「新名、あの人の言うことは真に受けんな。いつもああやって気に食わない奴には脅しをかけんだよ」
それに伊近が耳元でこっそりそんなことを言ってくれたおかげもあって、俺もすっかりきっぱり忘れることにした。
「では、これより第53回月見里学園高等部入学式を始めます。一同起立・・・」
入学式は厳かな雰囲気で始められ、一段と引き締まった空気に俺も姿勢を正す。
礼をして着席すれば、今起きたらしい智希が弾けるように立ち上がって、周りからは控えめだが失笑が起こってしまった。
は、恥ずかしい・・・。
自分のことではないのに、俺はなんだか親の気分でそう感じてしまい、まだ状況が把握しきれていない智希をの腕をすかさず引いて座らせてやる。
それに伊近と黒崎は呆れたような視線を送ってくるが、特に黒崎!お前隣なんだから始まったと同時に起こしてやれよ・・・。
何となく緩んでしまった場をもう一度引き締めるように、進行役の教師は咳払いをして、口を開く。
「ではまず、月見里学園理事、月見里春人様からのお祝いの言葉を頂戴したいと思います。では、理事長壇上に・・・」
しかし、空気が緊張に包まれたのはほんの一瞬だった。
理事長の名前・・・俺達の父親の名前が呼ばれた瞬間、なぜだか講堂はまたあの黄土色の悲鳴に包まれたのだ。
しかも声が響いて、さっき以上に破壊力は抜群だ。
両手で耳を塞ぎながら何事かと伊近に顔を向ければ、なんともいえないような難しい顔を返されてしまい、聞くことを躊躇われる。
というか、本当はさすがの俺でも今までのことを振り返れば、分かってしまっていたことだったのだ。
それなのに伊近に確認を取るようなことをしたのは、現実に目を背けたかったというか何というか・・・。
自分の父親が男子高校生達にきゃーきゃー言われているのって複雑だ。
もちろん伊近も然り・・・だが。
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