私立月見里学園高等部
B
しかしそうは思いながらも何か言いたそうだった先輩が気になり後ろを振り向けば、こちらを見ていたらしく目が合い、手を振られてしまった。
しかもにっこり笑顔付きで。
その綺麗な笑顔に釣られて手を振り返そうとすれば、その手を先に黒崎に掴まれてしまって、どうすることもできない。
会釈で返そうと思っても、すかさず智希に顔を前へと向けられてしまっては、もう八方塞だった。
なんだ、皆して。
「新名、あの先輩の相手はしなくていいからな」
更に念を押すように伊近がそう言えば、しかしそれには馬鹿にしたような笑いが返された。
「はんっ、元はと言えばお前が新名の名前を言わなければ済んだ問題だろうが」
相手はもちろん黒崎だ。
だがその言葉に、そう言えば伊近が俺の名前を言ったことで先輩が話しかけてきたのだと思い出す。
そうだ、元はと言えば伊近の発言が元だったんじゃないか。
俺が少し責めるような目をしたせいだろうか、伊近はいつものように黒崎に言い返したりはせずに、心持ち暗い表情で掴んだ俺の腕をぎゅっと握り締めてくる。
なんだよ、拗ねてるのか?
まあ・・・別に俺は怒ってるわけじゃないんだぞ。
いつもならそこで頭を撫でてやればすぐに機嫌が直るのだが、生憎今は両手が塞がれてしまっている。
でも甘やかしすぎるのもよくないし。
と少し冷たいことを俺を考えていたのに気付いたのか、タイミングよく智希が声を発して、とりあえずその話題はなかったことになる。
「ほら、俺達Aクラスだから1番端っこだぜ。早く行かないともうすぐ式始まっちゃうって」
智希・・・何て空気の読める奴なんだ。
相変わらず背中にへばりついて重いが、この際仕方ないと諦めることにしてやろう。
とりあえずその1番端の席に向かわなくては。
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