私立月見里学園高等部
A
何だ?
と伊近の方に顔を向ければ、焦ったように腕を引かれ、受付も済まさずにその前を通り過ぎようとする。
しかし、そんな俺の腕は後ろからほっそりとした手に掴まれてしまい、身動きが取れなくなってしまった。
「ニイナ?」
「はい?」
後ろから名前を呼ばれ、振り返れば相変わらず綺麗な笑みを湛えたままの先輩と目が合う。
「え?ああ、君のこと?そう言えば見慣れない顔だけど・・・はい、入学おめでとう」
そして腕を掴まれたまま、器用に逆の手で花を襟元に付けられてしまった。
これが先輩の仕事だってことは分かるんだが、伊近もこの先輩も意外と力が強いもんだから、正直早く腕を放して欲しい。
それに何か周りからもじろじろ見られている気がして、その視線も痛い。
気のせいと思いたいが、この間の食堂の比にならないくらい痛いのだ。
「あ、はい。俺は編入・・・
「那月先輩!後ろが詰まってるんで早くしてくださーい!」
え?智希?」
早く開放して貰うためにさっさと名乗ってしまおうとすれば、後ろにいた智希が無理矢理先輩の手を引き剥がしてしまったので、それは途中で終わってしまった。
まあ、別に俺にとっては早く開放されるに越したことはなかったのだが。
いきなり口を挟んだ智希に、その那月先輩は一瞬、ほんの一瞬だけムッとしたような顔を見せた後、少し乱暴に花を襟に付けてやる。
「堀田くんまで・・・。君は一体・・・」
そして再び俺に視線が向けられるが、何か言われるより先に前から伊近に手を引かれ、後ろからは智希に背中を押されてしまってよく分からない。
しかしあの針のむしろ状態から抜け出せるのなら、もう何でもよかった。
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