私立月見里学園高等部
A
「・・・なんだ、永久様じゃないじゃん。抱きついて損しちゃった」
と、さっきまでうるうるとした目で俺を見上げていた少年は、俺がその”永久様”でないことに気付くと、掌を変えたように態度が一変してくる。
声も高いといえば高いが、それは男のそれだった。
しかし、また変な客がやってきたな。
まださっきの一件が解決していないっていうのに。
半ば俺は諦めたような心境で少年に目をやれば、キツイ視線で睨み返され、意味が分からない。
俺が何をいたって言うんだ?
「何なのアンタ、そんな可愛くもないのに永久様の部屋に勝手に入るなんて!永久様には僕みたいな可愛い子がお似合いなの。永久様も迷惑してるだろうし、ほらさっさと出ていきなよ。その犬も連れてさ」
とこの場合犬というのは俺の後ろに張り付いたままの智希のことだろうか?
確かにさっき俺も犬みたいで可愛いと思ったが、その言い方はないと思うぞ。
そのことに意見しようと俺が口を開きかけたところ、智希の反対側から不意に誰かに抱き寄せられてしまう。
しかし、その短時間で嗅ぎ慣れてしまった香水の香りに、すぐに正体が分かってしまった。
「永久様・・・っ!ねえ、僕の手紙読んでくれた?」
「アァ?・・・ああ、あれお前だったのか。まあ、どっちでもいい。俺は今取り込み中だ。出て行くならお前が出て行ってくれ」
「えぇ!?ってちょっと!アンタ、永久様から離れなさいよ!」
ん?何かこれはさっきも言われたような気がするな。
確か、相澤先輩に抱き締められたときも。
全く、俺は別に好きで男に抱きつかれてるわけじゃないんだが。
言うなら黒崎に言ってくれ。
ってあれ?永久様って・・・。
「ながひさじゃないのか」
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