私立月見里学園高等部
C
もやもやした気持ちを押さえ込みながら伊近が消えていった茂みから視線を逸らす。
そこには何とも言えない顔で立っている智希の姿があり、俺はただ困ったように眉間に皺を寄せることしか出来ない。
伊近のことどころか自分のことさえ分からない今の状況に、俺は情けない気持ちでいっぱいだった。
「新名・・・」
ぎゅうっと縋り付けるものを求めるように黒崎の首筋に顔を埋めれば、小さく智希に名前を呼ばれる。
その声は俺を責めるでもなく、ましてや俺を諭すものでもなく、ただ優しく呼びかけるだけのものだ。
やっぱりコイツらはとてつもなく優しい。
出会って一月とちょっとしか経ってないというのに、当たり前のように与えられる優しさがとても心地よかった。
ポン、と頭に手を置かれて、その温もりに息を吐けば、そのまま髪を梳くように頭を撫でられる。
ゆっくりと顔を上げた先にはやっぱり何とも言えない難しい顔で智希が立っていて、見上げる俺にそっと首を傾げて見せた。
「智、希」
「大丈夫だよ。伊近のことは新名が1番分かってるだろ?アイツが理由もなく新名を傷付けるようなことをするはずがない」
そう言う智希の目はまっすぐに俺を見つめていて、しかしその言葉に頷くことの出来ない俺は耐え切れずに視線を外してしまった。
本当に分からないんだ・・・伊近のことも、自分のこの気持ちも。
「ほら、そんな顔すんなよ。とりあえず今は伊近のこと俺に任せて、新名は黒崎に甘えてなよ。その役目が俺じゃないことはすっごく悔しいけどさ、でも黒崎にはこの俺の役目できないだろ?」
「堀田・・・」
「じゃあ、俺は伊近の後追いかけるから。黒崎、新名のことくれぐれもよろしくな」
茶化すように言う智希だったが、最後は見たこともないような真剣な顔で。
結局何も言えなかった俺は、2人に甘えることしかできない弱い存在なのだ。
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