私立月見里学園高等部
B
結局黒崎の好意に甘えることにした俺は背中から圧し掛かり、ぶらんと両腕を暖簾のように垂らして見せる。
首にしがみつくなんてこと、子供でもあるまいし・・・。
「なんだよ、しっかり掴まってろ」
出来るわけねぇだろ。という俺の思いとは裏腹に、半ば強制的に黒崎の首に巻き付けられてしまった。
本当、情けない。
「そうそう。大して縦も横も変わんねーんだから、振り落とされないようにそうやってろ」
しかも黒崎が喋るたびにそれが背中を通して俺の方に響いてきて、なんだか変な感じだ。
それにしてもこの台詞・・・どんな激しい運び方する気だよ。
しかし言われた通り首を絞めない程度にぎゅっと腕に力を込めれば、黒崎が小さく笑ったような気がした。
なんだよ、しっかり掴まってろって言ったのはお前だろう?
よいせ、と少しオッサン臭い掛け声を掛けながら黒崎が俺の膝の裏に手を回し、腰を上げた時だった。
カァっと体中が熱くなるような落ち着かない視線を感じ、反射的に顔を上げる。
絡み合った視線の先、少し離れたところからこちらを見つめている伊近は今にも泣き出しそうな顔で。
唇を噛み締めて眉間に皺を寄せる姿に、きゅうっと心臓が締め付けられる思いがした。
しかしこの苦しいような、悲しいようなこの思いが一体何なのかは俺には分からない。
答えのない感情に押しつぶされそうになって、俺は耐え切れず伊近から視線を逸らせてしまった。
それから少し遅れて聞こえたガサっと草を鳴らすような音に、今度はゆっくりと顔を上げた先には小さくなっていく伊近の背中。
少し猫背気味になっているその背中が俺だけじゃなく、まるで全てを拒絶しているかのように見えて、もともと掛ける言葉なんて持ち合わせていなかった俺は小さく溜息を吐くだけに終わった。
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