私立月見里学園高等部
持て余す感情
腕の拘束を解かれ、もう着れないであろうシャツの変わりに肩に羽織らされたブレザーは、少し汚れてはいるものの無事だったようだ。
あれよあれよという間に全開だったズボンの前を閉められ、次にベルトへと伸ばされた黒崎の手を俺は思わず掴む。
「ちょ、黒崎・・・」
助けてもらった上に、ここまでしてもらうわけにはいかないだろう。
俺は怪我をしたわけでもなんでもないのだから、拘束が解かれた今両手は自由だ。
それにまるで着替えもできない子供になったような気がして少し恥ずかしい・・・。
「自分でできる」
さっきは思わず黒崎に縋ってしまったが、もう大丈夫。
そんな意味を込めて視線を上げれば、黒崎はどうしてだか綺麗に整えられた眉を垂らして少し情けないような顔をしてみせた。
「・・・これくらいさせてくれ」
どうしてお前がそんな顔をする?
声までも情けない黒崎に俺は後の言葉が続けられず、掴んでいた手を離すことで返事をする。
そんな俺に黒崎は相変わらず下がった眉のまま笑うと、小さく「ごめんな」と言われてしまった。
黒崎が謝ることなんて何もないっていうのに・・・。
そんな黒崎の優しさに甘えながら、俺といえばそんな彼の手元から視線を上げることができない。
一途に向けられる伊近の視線があまりにも強くて、強すぎるそれにどうしたらいいのか分からないのだ。
思い出されるのはついさっき確かに感じた恐怖と困惑、それから自分自身持て余しているわけの分からない感情。
顔を見れば、傍にいれば手に取るように分かった片割れの気持ちが見えず混乱しているのかもしれない。
今はほんの少し、ほんの少しでいいから気持ちの整理をさせてくれ。
そんなことを考えながらぼんやりと見た黒崎の指は、意外にも細く長い綺麗なものだった。
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