私立月見里学園高等部
A
「全く、静かに本も読めやしない。主人公のメアリーがどうやって夫を殺したのか今からトリックを暴いていくところだったのに・・・」
そんな俺に掛けられた声の主は、1人我関せずで本を読んでいた渡辺だ。
どうやらミステリー小説を読んでいたようで、パタンとそれを閉じて見えた表紙には「名探偵メアリーの殺人レシピ」というタイトルが書いてある。
微妙に内容が気になるタイトルだが、これも今は置いておこう。
「仕方ないから俺が説明してやるよ」
と言ってくれているのだから。
「まあ、どうせ伊近と黒崎がくだらないことで喧嘩して、1人にされた智希だと新名に逆らえなかってとこだろ?じゃなかったら親衛隊の被害に1番遭ってる奴らが止めないわけないしな」
「被害?」
眼鏡をくいっと上げながらこちらに近付いてきた渡辺は、まだ何故か青白い顔で固まっている伊近、智希、黒崎の頭を順に小突いていく。
「そう。こいつらは何故か俺よりも頭がいい上にルックスもいい。加えて家柄もいいとくればこの学校ではもちろんファンが大勢つく。その生徒達の集まり・・・所謂ファンクラブみたいなもんが“親衛隊”と呼ばれるものだ。まあ、中でも伊近は理事長の息子っていう効果もあって幼稚舎の頃から上級生によって親衛隊が作られてたんだが・・・。初等部のわけの分かんねーガキの頃に公式のものと認定しちまったもんだから色々とめんどくせーことになっててな」
はあ、とりあえずこの3人が人気のあることはこの学校に来てから嫌という程思い知ったが、まさかファンクラブまであるとは。
・・・ってあれ?
「ファンクラブ・・・親衛隊・・・」
俺さっき勝手にやってくれとか言ったよな?その親衛隊ってやつを・・・。
「おう、それがさっき新名にも出来たってことだな。しかも本人が認めた公式の」
「そうだ!新名、今ならまだ間に合う!今すぐ奴らを止めてこい!」
楽しそうに笑う渡辺に、小突かれたことによって復活したらしい伊近がそう続けるが・・・まさか。
「何で俺にファンクラブ・・・」
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