私立月見里学園高等部
お客様
「ただいま」
マンションの管理人に見られないようにコートでニイチを隠しながら部屋に戻ると、見たことのない靴が2足、玄関に綺麗に並べられていた。
めずらしく母さんも俺より先に帰っているようで、少し顔を顰める。
母さんは、お腹が空いていると鬼のように怒るのだ。
そりゃもう本当の鬼みたいに。
普段は性格がキツくてもそれなりに優しくて、俺のことも可愛がってくれていることも分かっているから、それくらい別にいいんだけれど。
女で一人でここまで育ててくれたことには感謝しているし、自分一人の手でファッションブランドを立ち上げて、デザイナー兼社長をしている彼女は実は俺の自慢の母親だったりした。
お客さんが来ているから怒り狂っていることはないだろうけど、もし怒っていたらどうやって宥めようかと、廊下を歩きながら考える。
こないだはイチゴプリンで手を打ってもらったから、今回も何か希望のデザートにしてもらおう。
そう言う俺は何を隠そう趣味がお菓子作り、特技が料理と言ってもいいほど料理好きだ。
母親が仕事で忙しくしていたため、せめて家のことはしようと、物心付いた頃から台所に立っていたせいなのだが、母さんはいつも手放しで俺の料理を褒めてくれるから、似合わないとは分かっていてもやめられない。
そんなことを考えながら、リビングに続く扉を開けた瞬間、何か大きなものに抱きつかれて、俺は思いっきり固まってしまう。
「新名!」
と俺を呼ぶ声は聞いたことのないもので、ますます体を強張らせてしまった。
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