私立月見里学園高等部
A
「…すまない」
頭を掴まれたままでは、それを下げることはできなかったが、変わりに目を伏せて謝罪の言葉を告げる。
助けてくれたことと、放ったらかしにしてしまったこと両方に対してだ。
許してもらえるだろうかと、少しだけ上の位置にある顔を覗き込むように様子を見れば、弾けるように手が離される。
そしてそのすぐあとに頭を撫でられて、俺はほっと息を吐いた。
あんな喧嘩の強い彼を怒らしてしまったら大変だからな。
しかしだからと言ってこんな歳にもなって頭を撫でられるのはどうしたものか。
しかもそれが昔母さんにされたそれに似ていて、どこかほっとするから無下にもできずに困ってしまう。
さて、どうしたものか。
「…手」
しかし口から出たのはその単語だけで、どうにも口下手な自分が憎い。
もうこれは口下手という次元じゃなく、一種の特技かもしれないな。
その先をどう続けようかと考えて、しかしその前に頭から手が離れていった。
「ああ、悪かったな。コイツがされてるのみたら俺もしたくなっちまった」
どうやら目の前の相手にはあれだけで伝わったらしい。
これで分かってもらえるのは母さんくらいだったから、変に感動してしまった。
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