私立月見里学園高等部
E
皆が龍之介に気を取られている隙に伊近の手を引き走り出す。
「ちょ、新名!?」
戸惑ったような声が背中に掛かるが、この際気にしてられるか!
今この機会を逃せばまた足止めを食らうのは目に見えてんだよ・・・っ!
「ほら、行くぞ!」
その人ごみを掻き分けるたび龍之介から俺達に視線を移した彼らからは悲鳴やら歓声やらが上がるが、構っちゃいられねぇ。
『ノォオオオオ〜っ!ハニー!俺を置いてどこへ行くんだーいっ!?』
幾多の手に捕まりながらもそれを振り切り、背中に掛かる龍之介の声も振り切りひたすら走る。
家に帰るだけが目的だと言うことをすっかり忘れ、この人込みを抜けることになぜか使命感を覚えた俺はひたすら門を目指して走った。
それにワンテンポ遅れて俺たちを囲んでいた集団が後に続き、上空からはヘリが追いかける。
まったくしつこい奴らだぜ・・・。
まるで某アクション映画のような光景に他の生徒や父兄たちはポカンと呆気に取られたような顔をしていたが、俺はとにかく門まで走るのに必死だ。
いつの間にか横に並んだ伊近に今度は逆に引っ張られる形で全力疾走する俺達は傍目から見ればどんな風に映ったのか・・・。
縺れ込むように門を潜り抜けると、達成感にどちらともなく笑みが零れて、顔を見合わせて笑ってしまう。
「へへっ、新名やるじゃねぇか・・・っ」
「フン、お前もな」
「フーッ!」
しかし一人(というか一匹)俺に抱かれたまま縦揺れを味わったニイチはお気に召さなかったらしい。
不満を告げるようにそうひと鳴きすると、たんっと俺の腕から地面に降り立ってしまう。
「あ!ニイチ!?」
「ちょ、新名また走るのかよ!?」
そしてそのまま実家のほうへと向かって駆け出してしまうニイチを今度は追う形で走り出した俺達を、生徒達がうっとりとした目で見送っていたのを誰が想像できただろうか・・・。
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