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私立月見里学園高等部
B
 そうそう、確かそんな名前だったと思い出す前に、俺の後ろに控えていたもう1人の不良が声を上げる。

それに彼は振り返ると、いつも目深に被ったキャップのせいで顔は知らないが、その片方だけ唇を吊り上げて笑う笑い方は確かに”イチカ”だった。

 俺と目の合った(ような気がする)彼は、笑みを深くすると俺の胸倉を掴んでいた奴の手を捻り上げる。

「いっ!」

笑いながら人を痛めつける彼は絶対にドSだ。

それに内心呆れながらも、拘束から逃れた俺は、後ろにいたもう1人の不良に向き合おうと振り返った。

「ニイナ。お前、ソイツ抱いてんだから大人しくしとけ」
 
 だがそれはこんな場面には不似合いな程とても優しい声で遮られてしまう。

心地のよいバリトンに、俺は思わず動きを止めて自分の状況を思い出す。

両手には猫、その腕にはスーパーの袋。

そういえばそのせいで反撃が出来なかったのだと今更思い出し、どうやら怯えているらしい猫を抱く腕に力を込める。

猫、お前は俺が守ってやるからな。

 大人しくなった俺に満足したのか、彼は再び不良達に向き合うと、向けられる拳を避けながら、奴らには徐々にダメージを与えていく。

彼の戦い方はとても綺麗だ。

腕の振りだとか、足の上げ方とかのせいもあるだろうが、無駄のない動きが流れるように繰り出されるのは見ていてとても格好いい。

初めて見たときもそう思ったが、久々にそれを見た俺はすっかり魅入ってしまって、不良達が尻尾を巻いて逃げ出したあとも、しばらくその場で呆けてしまっていた。

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