私立月見里学園高等部
アシュレー様のわがまま
礼央先輩の引率の元、集合場所から程近い場所に指定されたコテージが今日の俺たちの寝床らしい。
遠目で見た限りでも結構しっかりした造りだったが、近くで見ても大きく、雰囲気のあるもので、快適な1日が過ごせそうな気がする。
「新名くーん!!!!!!!!!今夜夜這い掛けにいくから窓の鍵ー開けておいてね〜!!!!」
しかしそんな気分は恥ずかしげもなく上げられた空の大声でぶち壊しにされ、俺は更に何か言われる前にそそくさとコテージの中へと入った。
が、その中を見回す間もなく、突然すぐ横の壁へと体を押し付けらてしまったではないか。
痛みに顔を顰めながら、何事かと顔を上げれば、日本人離れした顔が視界いっぱいに広がって、とにかくこんな暴挙に出た相手が相澤先輩だと言うことだけは分かる。
「あ、相澤先輩!?」
いつもとは違うどこか真剣な眼差しの先輩の名前を呼べば、悔しそうに歪められた唇がわなわなと震えた。
「・・・どうして俺の名前を呼ばない?確かに俺は君に1度振られているが、だからって当てつけにあんな可愛い子とイチャイチャするなんて許せることじゃないだろう!?」
確か名前は陸川空くんだったな?と、そういえば全校生徒の顔と名前を記憶しているらしい先輩は呟くが、正直話の流れが見えてこない。
どうしてこんなに怒っているのかも分からないし、・・・イチャイチャ?誰と誰がいつイチャイチャしたんだ。
「っと・・・相澤先ぱ」
「アシュレーだ」
「それ、・・・恥ずかしいんですが」
とりあえずこの体勢をどうにかして欲しいともう一度名前を呼べば、すかさずそう訂正されて取り付く島もない。
って初めて会った時も無理矢理そう訂正されたが、なんとなく気恥ずかしい気がするのは俺だけなんだろうか?
皆ふつーに呼んでるしな・・・しかも主に様付けで。
「・・・龍之介と呼ぶことを許してやる」
鼻と鼻がくっ付きそうな距離で、渋い顔をした俺への譲歩なのか先輩はそう提案してくるが、まあそれならいい・・・の、か?
うーん・・・でもこの目は言わないと許してくれなさそうだな。
さっき”礼央先輩”と呼べと強要してきたがフレンドリーな彼の目とは違い、この先輩の目は縋り付くようなもので、どうにも断りづらかった。
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