私立月見里学園高等部
B
だが、そんな俺の心配も杞憂に終わったようだ。
壇上に上がった父さんはいつものデレデレっぷりが嘘のようだった。
緩みっぱなしの表情もキリっとしていて、微笑を湛えながら祝辞を述べる姿は身内の贔屓目を除いてもカッコいい。
言っていることは何の変哲もないよくある入学式での祝辞なのだが、落ち着いた穏やかな調子で話す父さんに、周りの生徒達はうっとりと聞き惚れているようだった。
「・・・以上で、私のお祝いの言葉とさせていただきます。本日は皆さん、本当におめでとうございます」
前振りの割りに祝辞の言葉はあっさりと終わったらしい。
立ち上がって拍手までしだす生徒にビックリしながらも倣って手を叩けば、壇上の父さんがまたこちらをみて嬉しそうに笑うもんだから、また被害者が出てしまった。
全く、どっちが子供だよ・・・。
まるで発表会に来た保護者の気分で手を叩いていると、小さく手まで振ってきて、さっきまでの凛々しさが台無しじゃないか。
「静粛に、静粛に!!」
鳴り止まない拍手に再び進行の声が重なり、・・・この人も大変だな。
「次に新年度生徒会の発表と、新生徒会長からのご挨拶をいただきたいと思います!!」
マイクだというのに張り上げたせいか、今度は生徒達にも届いたらしい。
会場は再度静寂に包まれ、甲高い声に辟易していた俺もほっと息を吐く。
しかし、それもほんの一瞬のことだった。
「きゃああああああああああああああああああ!!!!!!」
父さんの名前が呼ばれた時の何倍だ!?
講堂の窓ガラスが震えるほどの絶叫と歓声に、耳を塞ぐタイミングを見誤った俺は、鼓膜が破れるんじゃないかと思ってしまったほどだ。
隣の伊近はちゃっかりと耳を塞いでいて、煩そうにしているが直接耳にするよりマシだろう。
しかし、そんな伊近に文句を言う前に生徒達は更にヒートアップしていく。
今更だが耳を塞ぐと、壇上にはいつの間にか上がったらしい6人の生徒。
・・・その例の新生徒会だろう生徒達に、俺は特に個人的な恨みはないが、この喧騒にこっそりと彼らを睨み付けておいた。
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