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It's your smile.
 
 休み時間。次の授業の簡単な予習をしていた私は、右隣からの視線に気が付きました。
 手を止めて、そちらを向いてみます。

「どうかされましたか、桜子さん?」
「ううん、なんでもないよ」

 不思議に思いましたが、視線をテキストへ戻すことに。
 先ほどの続きをしようと思いましたけれど、変わらず向けられ続ける桜子さんの視線が気になってしまって。

「桜子さん。何か御用ですか?」
「ううん、なんでもないよ。気にしないで」

 そうは言われましても。
 目線だけでなく、身体ごとこちらを向いて。
 しかも、顔ばかりをじっと見つめられては、気にしない方が無理です。

 ――そういえば昔、これと似たようなことがありましたわね。

 あれは確か、私たちが小学生の頃。
 私と桜子さんの席が初めて隣同士になった日のこと。
 今と同じように、桜子さんは私の顔をじっと見ていて。
 私が何度も「どうかしました?」と聞いても、「なんでもないよ」と答えるばかり。
 これ以上は埒が明かないと思い、私は彼女に構うのを止めて前を向こうとしたのですが、その時。

「あやかちゃんって、可愛いね」

 あまりに突然な桜子さんの言葉に、びっくりしてしまいました。
 みるみる顔が赤くなっていくのが、自分でも分かりました。

「い、いきなり何を言ってますの!?」
「だって、ほんとのことだもん」
「…………」
「前からそう思ってたんだよ? お隣になって、やっぱりそうだって分かった。笑った顔も、怒った顔も、あやかちゃんはすっごく可愛いよ!」
「そ、そうなんですの?」
「うん! それでね――」

 今思えば、聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなセリフを次から次へ。
 その時の桜子さんは眩しいくらいの笑顔をしていて――


「? どしたのいんちょ? 顔赤いよ?」
「な、なんでもありませんわ!」

 桜子さんの笑顔。
 私はそれに、何か特別なものを感じていました。
 今だって、それを思い出すだけで……。
 可愛いと言われるよりも、褒められるよりも、あの笑顔が私に向けられることが、きっと嬉しかったのだと思います。

 桜子さんを見つめる。
 中学生になっても、あの頃と少しも変わっていない。
 私の顔が少し綻ぶと、それに合わせるようにいっぱいの笑顔を見せてくれる。

 ああ、私はこの娘の素直な笑顔が、堪らなく好きみたいです。


  


あきゅろす。
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