天真爛漫
「ねえ、アキラ。来週のお休みはどこ行こっか?」
昼休みの教室。まき絵が楽しそうにアキラに話しかける。
手にした雑誌を眺めたりしながら、二人は休日の予定をたてていた。
「あっ、ここってこの前テレビで紹介してた所だよね!」
「うん、そうだね」
「そう言えば朝倉に聞いたんだけど、街に新しいアクセサリーショップが出来たんだって! 行ってみる?」
「うん、それもいいかも」
「それとも、この季節は海の側とかも良いかもね!」
嬉々としたまき絵の声とは反対に、アキラの声はあまり弾んでいなかった。
緊張というか、集中出来ていないというか。でもそれには明確な理由があって。
「ねえ、まき絵」
「ん? な〜に?」
「その……どうして、私の膝の上にいるの?」
まき絵の座っている場所。それはアキラの向かい側や隣の席ではなく、彼女の膝の上だった。
椅子に腰掛けるアキラに座ったことで、二人はほぼ密着している状態にある。
布越しに腿に伝わるまき絵の体温や、ここまで近いからこそ判る彼女の匂いが、アキラの精神を大きく揺さぶっていた。
ちょっと気を抜けばどこかへ落ちてしまいそうな、不思議な感覚。
「? どうしてって、そんなの決まってるよ」
アキラの問いかけに満面の笑みを浮かべて、まき絵は答えた。
それが当然のことであるかのように。
「アキラが好きだから」
その言葉に、自分の胸がトクンと高鳴ったのをアキラは感じた。
「アキラが大好きだから、ちょっとでも近くにいたいし、くっついていたいって思うの。だからだよ」
「でも、ちょっと恥ずかしいよ」
「え〜、なんで? 私は全然恥ずかしくないよ?」
そう言って、アキラの首に腕を回して抱きつくまき絵。より一層、二人の触れ合う面積は大きくなる。
アキラの顔はもう真っ赤だ。
「アキラの匂い……私、好きだよ」
「まき絵……。私も――」
「“プールのにおい”っぽくて」
「え゛」
まき絵の一言に固まるアキラ。
どこか甘かった雰囲気も、それで一気に崩れていく。
「どうかした?」
「ううん……なんでもない」
天真爛漫とは、彼女のためにある言葉なのかもしれない。
嬉しそうに頬を擦り付けるまき絵に、アキラはそんなことを思うのだった。
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