[携帯モード] [URL送信]
闇から始まる恋もある
「やっほー、来たよー!」
「こんばんわ」

 時計は午後八時を回ろうとしていた頃。
 亜子とまき絵の部屋に、裕奈とアキラがやってきた。
 運動部四人組集合である。
 亜子に招かれて部屋に上がると、中ではまき絵が頭から濛々と煙をあげて、テーブルに突っ伏していた。

「うわっ!? まき絵ってば、もうこんなになっちゃうくらい飛ばしてるの?」
「飛ばしとらんよ。まだ始めてから三十分も経っとらんで」
「三十分であんなに詰め込まれたら、私の頭パンクしちゃうよ!」

 その機能を停止したかに思われたまき絵は、聞き捨てならない亜子のセリフに息を吹き返した。
 ナイス反骨心。

「ゆーなぁ、聞いてよ!亜子ったらすっごいスパルタなんだよ!密室で二人きりなのをいいことに、私のことを攻め立てるんだよ!」
「おぉ、よしよし。怖かったね〜、まき絵」

 泣きつくまき絵を大げさなリアクションで慰める裕奈。「ゆーな!」「まき絵!」と、青春ドラマも真っ青なやり取りを繰り返す。

「聞いた人が誤解するような言い方せえへんの!ゆーなもまき絵のボケにいちいち乗るな!」

 痺れを切らした亜子が二人に突っ込みをいれる。
 だがそれもボケへの“フリ”にしかならず、ボケる→突っ込む→さらにボケる→さらに突っ込む……コンボを発生させ、一向に収まりそうにない。

「ねえ、三人とも」

 そんな中。ただ一人、コンボのループに入っていなかった彼女の一言で、場の雰囲気は一変した。

「私たち、テスト勉強するために集まったんだよね?」

 テーブルの上には亜子とまき絵のノートや教科書が開かれていた。――今は乱雑に散らばってしまっているが。
 裕奈とアキラの持っている鞄の中にも、同じように勉強道具が入っている。――裕奈のは放り出されてしまっているが。

「や、やだな〜、アキラ!忘れてないって!」
「そ、そうだよ、亜子。しっかりしなきゃ!今日の勉強会の主催者さんなんだから」
「え!? う、ウチのせいかい!?」

 どことなく怯えているように見えるのは気のせいであろうか?
 まあ、それは置いといて、弁解……と言うよりも責任の擦り合いが始まる。
 再びワーワーと騒ぎだす三人に対し、アキラは――

「みんな」

 (ビクッ)×3

「勉強しよう。ね?」

 極めて爽やかな笑顔を向けるのであった。
 


 その後は大した乱れもなく、勉強会は順調に進められた。
 始まってしまえば、こうして真面目に出来る子達なのだが、その始まるまでが非常に大変で。今日のようにアキラのブレーキに助けられることがしばしばある。

「あれ?」
「どうかした、アキラ?」
「部屋に参考書を置いてきちゃった。ちょっと取ってくるね」

 そう言って立ち上がるアキラ。すると何故だか、まき絵も一緒に立ち上がった。
 
「まき絵、どうしたん?」
「ん? ちょっとアキラについてく」
「はあ?」
「いいじゃん。気晴らし気晴らし!ね、いいでしょアキラ?」
「別にいいけど、すぐに戻ってくるよ?」
「オッケーオッケー! さ、行こ行こ!」

 アキラの部屋に行くのに、アキラよりも先に出て行くまき絵。
 この空間が相当窮屈だったようだ。
 でもまき絵にしては、黙ってよく頑張った方であろうか。

「ねえ、亜子。ここなんだけどさ……」
「ん? どれどれ?」

 亜子が裕奈の質問に答えようと、すぐ隣に寄って行ったその時――

「「!?」」

 急に部屋の明かりが全て落ちた。
 電灯だけでなく、エアコンやCDコンポの表示も消えてしまったのを見ると、どうやら停電らしい。
 とりあえず明かりをと、裕奈が携帯に手を伸ばすと、それとほぼ同時くらいに彼女の胸元に何か重みがかかった。
 目はほとん見えていなかったが、それが何なのかはすぐに分かった。

「あ、亜子?」
「か、堪忍な! 急に真っ暗になるもんやから……」

 裕奈にもたれ掛かる亜子の身体は、ふるふると小さく震えていた。

「ウチ、暗いのって苦手やねん。これから暗なるって分かっとれば平気やねんけど……」

 段々と暗闇に目が慣れてくる。
 ぼんやりとした裕奈の視界の中に映ったのは、今にも泣き出しそうな顔を向ける亜子の姿だった。
 二人は密着し、上目遣い、さらにこんなに可愛らしい弱点を見せられてしまったら、亜子には申し訳ないが、ドキドキしてしまう裕奈。

「亜子ってさ……」

 そしてこの異様な雰囲気に影響されてか、つい思ったことが口から出てしまう。 

「可愛い、よね」
「!? こ、こんな時に、何言っとるの!」
「いや、前から思ってたんだけどさ。優しくて、気が弱くって、真面目そうに見えて意外と天然で、恥ずかしがり屋で、暗いのがダメで」
「……それ、あんま褒められとる気がせんのやけど」
「あはは、ごめんごめん。でも……亜子のこと、ギュってしたいって言えば、この気持分かってくれる?」

 返事はなかった。
 その代わり、胸にかかる重みが、さっきよりもしっかりとしたものになったような気がした。

「沈黙は肯定と受け取りますが、それでよろしいですか?」
「……アホ」

 この前一緒に見た映画のセリフを言っておどけてみた裕奈に突っ込みは入ったが、それっきり、言葉は返ってこなかった。
 両腕を亜子の背中と腰に回し、彼女を抱き寄せる。
 二人の距離はさらに縮まった。

「亜子」
「……ゆーな」
「私、本気になっちゃうかも」
「うん」
「てゆうか……もう、なっちゃった」
「……うん」

 亜子の両手も、裕奈の背中へ回る。

「本気なら……ええよ」

 二人の関係が、友人からその先へ進むかと思われたその時――

「「あ――」」

 消えたときと同様に急に、明かりがついた。
 それによって、浮ついた空気から現実に引き戻されたような感覚を覚えた二人は、どちらからというわけでもなく離れた。

「電気点いたね」
「うん、点いたな」
「――ふふっ」
「? 何がおかしいん?」
「いや、あのまま暗いままだったら、私たちどこまでいったのかにゃ〜って」
「なっ!?」

 顔を真っ赤にしてあたふたする亜子。
 何か言おうとするが、恥ずかしさやなんやで言葉は全く出てこない。
 そんな時、玄関ドアの向こうから、楽しげな声が聞こえてきた。
 アキラとまき絵が帰ってきたようだ。

「ただいま」
「ただいま! 遅くなってごめんね〜」
「おかえり。随分かかったね〜って、あれ?」

 裕奈の目線の先、戻ってきた二人の手には、参考書ではなくてコンビニの袋が提げられていた。

「アキラは参考書を取りに行ったんだよね?」
「う、うん」
「コンビニ行ったの?」
「いや、これは、その……」
「私の我が儘に付き合ってもらったの。参考書取りに行ったけど見つかんなくて、そのまま手ぶらで戻るのも情けないな〜って。で、一緒に買い出しに」
「ふ〜ん、そっか」

 何か裏がありそうだったが、敢えて何も聞かなかった。
 裏があるのはこっちも同じだし……。

「さあ、これで一息ついて、勉強頑張ろう!」

 再び始まった、四人の勉強会。
 さっきと違っているのは、亜子と裕奈の視線がよく重なることか。
 亜子が見つめれば、裕奈が微笑み。
 裕奈が見つめれば、亜子が照れる。
 仲良しから一歩進んだ二人の関係は、この後どうなっていくのでしょうか。
 それは誰にも分からないことで――


 


あきゅろす。
無料HPエムペ!