君、恋しや
日曜日の午後。
今日は私もまき絵も部活は休みで、何をするということもなく、二人でゆっくり過ごしていた。
まき絵は雑誌を読んでいて、私は音楽を聞きながら、そのCDのブックレットに目を通している。
のんびりとした、穏やかで心地良い時間。
まき絵と二人っきりなのか、って意識した時はなんとなく緊張したりもしたけれど、いつの間にかそれもなくなっていた。
「あーきら」
「なに?」
振り向かないで返事だけすると、後ろから抱きすくめられた。
驚いて変な声が出そうになるのを我慢する。
「ど、どうかした?」
「ん〜。なんかアキラの後ろ姿見てたら、いてもたってもいられなくて」
「そ、そう……」
不意打ちのスキンシップはまき絵の得意技。
こっちが油断してる絶妙なタイミングで仕掛けてくる。
今だってそう。この状況に慣れたところに来た。
さらにタチが悪いのは――
「特に……この辺とか」
「!?」
うなじの辺りに、柔らかい感触。
意思とは関係なく背筋がぶるっと震えて、何をされたのかって想像すると、恥ずかしくって身を捩る。
こうゆう事を、なんの予兆もなく、躊躇いもなしにする。
されて嫌な訳じゃないけれど、私が同じような事をしようとしたらどれだけの勇気が必要か。そう思うと少し複雑。
「あ。耳赤くなった」
「まき絵が変なことするから……」
「えへへ。ごめんごめん」
今度はぎゅーって抱き締められる。
「最近、急に寒くなってきたよね」
「もう十月だし、すっかりすっかり秋だね」
「秋は人恋しいっていうけどさ」
「うん……」
「アキラは、恋しい?」
回されていた腕がほどかれて、まき絵の身体が離れる。
振り返ると、照れくさそうに笑っていて。
「やっぱり、正面からの方が良いな」
また鼓動が速くなる。
「ねえ、いいかな?」
「……うん」
不意打ちに触れてくる君。
「私はね、アキラが恋しいよ」
照れながら触れてくる君。
「秋だけじゃなくて、春も夏も冬も、いつだってアキラが恋しい恋しいって、思ってるよ?」
どちらが本当の君なのだろう。
「……私も」
どちらにしたって、君が――
「まき絵が、恋しいよ」
――私の恋しい人に変わりはないのだけれど。
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