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プレゼント
 
「あれ? 桜子」
「うん? な〜に?」
「今日してるヘアピン、いつもの違うわね」

 朝のホームルーム前。
 桜子とのちょっとした違いに美砂が気づいた。

「これ? 昨日捜し物してたら偶然見つけたんだ〜」

 普段のシンプルな物とは違い、細やかな細工に、小さな星形の飾りの付いた髪留め。
 髪からピンを外すと、それを美砂へ手渡す。

「綺麗だけど、少し子供っぽくない?」
「そりゃそうだよ。それ貰ったのって小学生の低学年の頃だもん」
「誰から貰ったの?」
「んっとね〜――あ!」

 美砂からピンを受け取ると、桜子は扉の方へ。

「おはようござい――」
「い〜んちょ!」
「あ――っと、いきなりどうなさいましたの、桜子さん?」

 教室に入ろうとしてきたあやかに飛びつく桜子。よろめきながらもそれを受け止め、あやかは抱きついた時に乱れた桜子の制服を正してあげる。

「いんちょに貰ったんだよ!」
「? 話が見えてこないのですが……?」
「これ、覚えてる?」
「これは、随分懐かしい」

 それがかつて自分が送った物だというのはすぐに分かった。
 着けて着けてとせがむ桜子の前髪へピンを通す。

「まだ持っていてくれたんですね」
「当然だよ。大事なものだもん」
「よく言うわよ。昨日たまたま見つけたくせに〜」
「えへへへ……」


――――
 
 
 年も押し迫った、12月のある日。
 冬休みに入る少し前のその日、初等部のクラスでクリスマス会が開かれた。
 みんなで飾り付けをした教室で、クリスマスツリーを囲んで歌を歌ったりゲームをしたり、サンタさんのくれたお菓子を食べたり。そんな楽しい時間の締めくくりはプレゼント交換だった。クラスのみんなが輪になって、銘々に持ってきたプレゼントの箱を音楽に合わせて隣へと回して、音楽が止まった時に持っていた箱が自分へのプレゼントになる。
 誰のが自分のところへ来るのだろう、自分のは誰にいくのだろう。みんなそわそわしていた。

「あやちゃんは、なにをもってきたの? わたしはね〜」
「ストップです! それをいってしまったら、たのしみがなくなってしまいますわ」
「あ、そうだね! もらってからのおたのしみだね」

「みんな準備出来ましたか? それじゃ、わっかになって並んで下さい。始めますよ〜」

「はじまるって! たのしみだね!」
「そうですわね」

 桜子はタタッと、あやかとは反対の方へと並ぶ。

(わたくしのはこは、しろいはこ。さくらこさんのはこは、あかいはこ……)

 先生の弾くオルガンに合わせて、プレゼントの箱が流れていく。


――――


「ただいま戻りました」

 夕方。委員会の用事があったあやかは、普段よりも遅めの帰宅となった。

「おかえり、あやか。お客さんが来てるわよ」
「桜子さんですよね」
「あら、どうして分かったの?」
「玄関に靴がありましたし、それに……」

「やったー! また私の勝ちー!」
「な、またなの!?」
「ねーちゃん! イカサマとかしてへんやろな!」

「……廊下まで聞こえてましたわ」
「あらあら」

 あやかは賑やかな奥へ急ぐ。

「あ、いいんちょ。おかえり」
「おかえりー!」
「おかえり」
「はい、ただいまです。何をなさっていたんですか?」
「カードゲームだよ。もう桜子すっごく強いの! いいんちょもやる?」
「遠慮します。桜子さんがそういったものに強いのは、よ〜く分かってますから」

 それほどでも〜、と山積みになったゲームのチップに囲まれて笑う桜子。数えるまでもなく桜子の圧勝だったようだ。

「それで桜子さん。私に用があるのでは?」

「あ、うん。一緒に勉強してほしいな〜って。テストも近づいてきたし。ダメかな?」
「もちろん、大丈夫です。それでは、私の部屋でやりましょうか」
「うん、ありがとう!」

 持ってきたノートやら教科書を抱えて、桜子はあやかについていく。

「……この結果、どう?」
「本物のギャンブルやなくて助かったわ……」
「片づけよっか」
「そやな」


――――
 
 
「いつからいらっしゃってましたの?」
「学校終わってすぐかな」
「それでは、だいぶ待たせてしまいましたね」
「ううん、大丈夫。いんちょも委員会お疲れさま」

 あやかの着替える横で勉強の準備をしていると、棚の上に懐かしいものを桜子はみつけた。

「いんちょ、あれって――」

 そこにあったのは、外国のコインの詰まった小瓶だった。

「覚えていました? その髪留めと交換した、桜子さんからのプレゼントです」

 あのクリスマス会のプレゼント交換。あやかの箱は桜子へ、桜子の箱はあやかへと渡っていた。

「幸運を呼ぶっていういわれのあるコインを詰めたんだけど、今思うと全然子供のプレゼントっぽくないね」
「そうですね。私も箱を開けた時はびっくりしました」
「でも、ちゃんと持っててくれたんだ……」
「ええ、もちろんです。私の大事なものですから。桜子さんは、私のあげた髪留めのこと、すっかり忘れてたみたいですけど」
「えっと、でもちゃんと箱に入れて大切にしまってたんだよ? 大切にしまいすぎて埋もれちゃったけど、あやちゃんのが貰えたって分かった時は、私本当に嬉しくて――」
「大丈夫。ちゃんと分かってます。ちょっとからかってみただけです」
「……いじわるだ」
「たまには、そうゆうのもいいでしょう?」

 あやかに身を寄せ、とん、と頭を預ける。

「この髪留め、ずーっと大切にするね」
「私もです。あのコインも、それが呼んだ幸運も、それをくれた桜子さんも」
「ねえ、あやちゃん……」
「はい……」


――――


「お夕飯食べてからにしたらって、言いに来たけど」
「この雰囲気はちょっと破れないね〜」
「もう少し様子を見ましょうか」
「そうだねーーって、様子を見るって、直接見張ることなの!?」
「夏美ちゃんは気にならない?」
「それは……」
「あら、あやかったら」
「え! なになに?」

「扉に耳当て、隙間を覗き……。端から見たら凄い画やな。通報したら捕まるんちゃう?」


 



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