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SOSにご用心
 
 夏休みももう終わろうかという八月のある日。

「そろそろかな」

 アキラはカレンダーを眺めながらそんなことを呟いた。
 例年通りならこの時期、さらに言えば長期休暇の終わる間近になると、彼女のもとにはある便りが届くはずなのだ。
 アキラの気持を読み取るように、携帯電話がメールの着信を告げる。
 来たか、とメールフォルダを開くと、届いた便りの差出人は彼女の予想した通りであった。

「今年はどんなのになってるかな……」

 本文を見る。そこにあったのは、遅れた暑中見舞いでも残暑見舞いの言葉でもなく、短くただ一文。

“タスケテ”

 事情を知らない人が見れば、気味の悪さに携帯電話を放り投げてしまいそうになるだろう。
 しかしアキラはそんな素振りも見せず、寧ろ苦笑い気味にその一文を見つめる。

「今年はホラー風か。あんまり捻りはないけど、緊迫感は伝わるね」

 すぐに返事を送る。

“まだ間に合うよ。手伝ってあげるから、残った課題を持っておいで”

 その返事も、またすぐに返ってきた。

“ありがとう! 今すぐに行くね!”

「相変わらずだね、まき絵は」

 去年はその時に流行っていた映画のセリフをもじったもの。一月に来たのは「二週間そこそこでこんな量を消化出来るか!」という文句を延々。四月にいたっては「課題なんてあったの?」というとんでもないものだった。
 休みが明けそうになる時に送られる“課題SOSメール”は、もはやアキラにとって風物詩となっていた。

「自分でやらないと、まき絵の為にはならないんだけど――」

 泣き付かれる度に手伝ってしまうのは惚れた弱みか。

「……バカピンクを卒業出来ない原因はこれだったりして」

 そうこうしている内に部屋のインターホンが鳴る。きっとまき絵だろう。本当にすぐやって来た。

「もうすぐ夏休みも終わりか……」

 課題をどっさりと抱えているだろう彼女を迎えに、アキラは玄関へと向かった。







「それにしてもアキラ、私が課題で悩んでるのよく分かったね」
「……いつもの事でしょ」
「それはそうだけど、そうじゃなくて! 私がSOSを送ろうとしていた矢先に、アキラの方からお助けメールが届いたんだもん。これが以心伝心ってやつ? 想い合っていると心って繋がるんだね」
「ちょっと待って。先にメール出したのはまき絵でしょ?」
「ううん、違うよ。私が出したのはお礼のやつだけ。助けてメールはまだ出してないよ」

 ほら、と見せられたまき絵のメールフォルダの送信のところには、書きかけのSOSメールが入っていた。中を探しても、あの“タスケテ”というメールは無い。

「だ、だって、私の携帯には確かにまき絵の名前で着信が――」

 確かめようと自分の携帯電話のメールフォルダであのメールを開き、アキラは凍りついた。
 メールはある。だがその差出人やメールアドレスの部分が全て文字化けして見えなくなってしまっている。
 そして本文には――


“タスケテ ネエ、タスケテヨ”


「「い……いやああぁぁあぁぁ!!」」

 後にこの事は、3−Aを越えて学園中に広まり、様々な人たちによって調査・究明がなされるのだが、その真相が明らかになることはなかった……らしい。
 あのメールをまき絵の助けてメールだと勘違いしたことは、幸いだったのかもしれない。

 


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