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Virgoの君
 
 とある日の午後。
 特に用事もなかった琴葉は、雑誌を眺めながらのんびりと過ごしていた。
 パラパラとページを捲っていく中で、ふとある記事に目が留まった。

「“あなたの今月の運勢は? 大好評星占い”か……」

 それはよくあるおまけ程度のものではなく、数ページに渡って特集されていた。どうやらこの雑誌の看板コーナーらしい。

「この占い、結構当たるって評判なんですよ?」
「……歩。来たのなら来たと、何かアピールをしてから話しかけてくれないか?」
「琴葉さんのマネです。それよりも、今月の運勢がどうか見てみましょうよ!」

 急に現れ、琴葉の肩越しに雑誌を覗き込む歩。

 私のマネって何だ?
 副会長といい、聖奈さんといい、私はそんなに神出鬼没キャラにみられてるのか?

 二、三文句があった琴葉だったが、歩に急かされてその言葉を呑み込む。

「琴葉さんは山羊座ですよね。えっと、山羊座は……」
「“身近なところにあなたの幸せはあります。見落とさないように注意しましょう。特に恋愛関係において好調で、良い縁が見つかりそうです”」

 琴葉の運勢は概ね良いようだった。
 恋愛を筆頭に、金運、健康についても今月は優れているという記事が書かれ、星印も4つ付いていた。

「“相性が良いのは乙女座の人”か」
「乙女座、ですか?」
「この記事に書いてあることが本当なら相当なものだな。“触れ合うだけでお互いの気持が通じ合い、相手とより親密な関係を築けるでしょう”」
「触れ合う、だけで……」
「ふむ……」

 そわそわした様子の歩を横目に、琴葉は雑誌を閉じる。
 
「触れ合うだけで、か」
「琴葉さん、どうかしまし――!?」

 歩が言い終わるより早く、琴葉が彼女の腕をグッと引き。
 突然のことに、あれよあれよと言う間に歩は琴葉に覆いかぶされるように組み伏せられる。

「気を抜きすぎだ」
「いきなり人を投げておいてそれですか」
「で、どうだ?」
「どうだ、って?」
「占い。触れ合うだけで気持が通じ合う、って」
「こ、こんなムードもへったくれもない状況で伝わるかー!!」

 ありったけの力で琴葉を押しのける。
 頬を膨らませる歩に、当然だな、と琴葉は笑いを漏らす。

「……琴葉さんのことだから、私が乙女座だって知らないと思ってました」
「酷いな。私をなんだと思ってるんだ」
「鈍感朴念仁」
「……即答か」
「自分の胸に聞いてみて下さい」

 プイっと背を向けてしまう歩。
 琴葉は歩み寄ると、そっと後ろから歩の身体に腕を回す。
 お互いに黙ったまま、いつまでそうしていただろうか。先に口を開いたのは歩だった。

「琴葉さんが私の誕生日を知っていたのは、隠密の任務上、ですか?」
「それを言わせるか?」
「誰かさんは鈍感朴念仁トーヘンボクですから」

 少し力を込めて歩を抱きしめる。

「関係ないよ、それは」

 耳元で囁くように。

「知ってたのは、私の個人的な理由」
「個人的な理由って?」
「それは……察してくれ」

 そしてまた静かな時間。

「……うん、伝わりました。琴葉さんの気持」
「ほんとに?」
「うん。だって――」



「私は乙女座で、琴葉さんは山羊座ですから」



 振り向いた歩の見せた笑顔は、星空よりもずっと輝いていて綺麗だった、なんてセリフを言ってやろうかとも思ったが。

 絶対にバカにされるだろうから、琴葉は言葉を飲み込んだ。


 



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