ストッパー係
今日の昼過ぎのことだ。
午前中の仕事を終え、昼食のカップラーメンを啜っていると、携帯から振動音が鳴り出した。着信のバイブとはリズムが違う。どうやらメールらしい。
――食事中に誰だ。
苛々して携帯を乱暴に開けると、ディスプレイにはもう見慣れてしまった名前。
From:臨也
Sub:風邪引いちゃった
――――――――――
からだだるい
なんかあたまぐわんぐ
わんする
たすけて
しんじゃう、
卵、買ってきてね。
――――――――――
いや風邪じゃ死なねえだろ。
胸中で突っ込みを入れる。そして上部が平仮名なのに対して最後はきっちり漢字で打たれているのに少しだけ笑った。この有無を言わせない感じが彼奴らしい。というか、平仮名と漢字を使い分ける判断力があるのなら当分大丈夫だろう。
「つか体調管理くらい出来るようになれよ」
「は?」
「あ、独り言っす」
直ぐ様携帯の返信ボタンを押して『死んだか』と送りつければ間髪入れずに『ガソリン飲んで死ね』と返ってきた。此奴本当に熱あんのか。
頼られるのは自分のことを信頼してくれているからだと最近になって漸く分かるようになってきた(流石にあまり弱みを見せてはくれないが)。
そして、それを無性に愛しく感じてしまうあたり、自分はそろそろ末期だと思う。
「静雄、どうしたニヤニヤして」
余程珍しかったのだろうか、上司であるトムさんが怪訝そうな顔で此方を見つめてきた。
自分では気が付かなかったが、今俺は普段より大分破顔しているらしい。
「トムさん、今日の取り立てまだありましたっけ」
「?ああ、あと1件」
「じゃあ今直ぐ行きましょう」
「は!?」
「時間的には大丈夫っすよね」
実際の処、風邪自体の心配はあまりしていない(自分程ではないが、彼奴は丈夫だ)。しかし、何だかんだで仕事熱心な彼奴のことだ。冷え●タを貼りながらでもパソコンのディスプレイに向かっているに違いない。会いに行って、其れだけは止めさせなければ。そんなことをすれば症状悪化は間違い無しだ。
再び携帯を取り出し、カチカチと小気味良い音を立てさせながら文章を打ち出した。そして携帯をポケットに仕舞い、食べ終えたカップラーメンをごみ箱に向かって放り投げる。がさりと小さな音を立てて、其れは真っ黒な空間に吸い込まれるように落ちていった。
嗚呼、何だか無性に時間が惜しい。
「あれ、メール返信早いな」
新宿にあるとある高級マンションの一室。毛布に自らの体をくるませた青年が携帯を見てぼそりと呟いた。
案の定、と言ったところであろうか、静雄の予想は当たっており、自室で呻きながらも臨也はパソコンに向かって仕事をしていた。
From:静雄
Sub:Re:自己管理しろ
――――――――――
1時間でそっち行くか
ら大人しく待ってろ。
パソコンいじってたら
殺す。
――――――――――
「超能力者か何かなのかなシズちゃんて、」
何だか自分の行動が見透かされているようで癪だが、まだ死にたくないのでデータを保存してパソコンの電源を落とす。
さて寝るかとソファに突っ伏そうとしたその瞬間、家のチャイムが鳴り響いた。
確認する為にのろのろと起き上がりモニターに目を向けるとそこには見慣れたバーテン服(左手にはスーパーの袋)。
嘘、30分も経ってないよ。
イザイザあんま出てきませんが静臨です。
いざやんは風邪ひいても波江さん休ませて一人でこっそり仕事してそう。
そしてそんないざやんを影ながら心配したり止めたりするシズちゃん。
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