憂鬱









キーンコーンカーンコーン。

雷門中に、放課後を知らせる音が響き渡った。
今まで授業をしていた数学の先生が、そそくさと教室から出て行く。
それを横目で見ながら、あたしははぁと溜め息を一つついた。
筆記用具と数学の教科書やらノートを鞄にしまい、今から部活に向かう人や、これから何処かに遊びに行くであろう人達を見つめて、目を細める。

今日一日中、あたしの頭の中ではお母さんのあの言葉がひたすらリピートしまくっていた。
そんなわけで、さっきまで行われていた数学の授業なんて、これっぽっちも覚えていない。
あぁぁぁ!もう!
何がお見合いだよ!!
こんなに気分が悪いのも、全部お母さんのせいだ!!

…ちなみに、あたしは部活に入っていない。
所謂、帰宅部というやつだ。
それに、あたしには今から友達とどっかに遊びに行く予定だってない。

つまり、だ。
このまま家に帰宅すれば、きっとお母さんがお見合いの話を持ちかけてくるわけで。



「……嫌だなー………」



机にもたれかかり、ぼそりとあたしは呟いた。
……まあ、あのお母さんが言うんだ。
悪いことには、ならないと思うんだけど………。
………でも、やっぱりまだ自分の中で抵抗がある、かな。



「何が嫌なんだ?」



あたしが悩んでいると、突如、上空から声が聞こえてきた。
あたしは目を見開き、勢い良く顔を上げる。
そこには、あたしのクラスメイトで、男にしては長い髪の持ち主。



「……風丸……」



風丸一郎太。
陸上部に所属している、あたしの友達だ。
風丸はニコリと笑いながら、あたしの隣りの席に座った。
風丸の長い髪が揺れる。
純粋に、綺麗だなって思った。



「どうしたんだよ、今朝からずっと浮かない顔してさ」

「んー………、ちょっと家で、ね」

「母さんと喧嘩か?」

「喧嘩ってワケじゃないけど………」



風丸は本当にあたしのことを心配してくれているのか、凄く真剣な顔をしてあたしを見つめてくる。
でも無理に話を探ってこない、そんな風丸の優しさが嬉しかった。
風丸がたくさんの人に慕われる理由が、少し分かった気がする。

あたしは何だか照れくさくなり、少し視線を風丸から逸らした。
風丸ってば、女のあたしより綺麗なんだもんなぁ……。



「お前ンち、ちょっと複雑だもんな。ま、何かオレに協力できることがあったら、絶対言えよ?」



風丸はそう言うと、椅子から立ち上がりあたしの肩をぽんと優しく叩いた。
にっ、と笑うと、重そうな荷物を持って教室から去って行った。
恐らく、今から所属している陸上部の練習に参加しに行くんだろう。

一方あたしはと言うと、風丸の優しさに更に感動しているところだった。
はっとして、教室のドアを開き、廊下に出る。
背をこっちに向け、グラウンドの方に歩いていく風丸向って、大声をあげた。



「風丸ー!ありがとうねー!!」



風丸があたしの方に、少し驚いたように振り向く。
そして太陽の様に、はにかんでくれた。

あたしは風丸が見えなくなるまで、手をブンブン振り続けた。
そして、ふいに教室の開けっ放しの窓から、春風がヒュウっと入ってくる。
それはあたしの髪を揺らした。
そんな風でさえも、あたしの味方をしてくれている様な気がして。

あたしは小さくガッツポーズをすると、鞄を勢い良く手に取り、階段を駆け下りた。





憂鬱を晴らす風と彼


(っし!あたしも頑張ろう!)



090502/晴飛
090514/書き直し









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