君が好きだから無敵
対面
翌日、キングズ・クロス駅に着くと、一行は涙を飲んで別れの挨拶をした。
ホグワーツへと向かう二人に向けて両親が心配そうに声をかけた。
「ああ・・・・クラリス、ドラコ、体には気を付けてね。どうか元気に帰ってきて」
「うん、ママとパパも元気でね。行ってきます」
両親達に手を振ると、クラリスとドラコは共に列車に乗り込んだ。
たくさんの荷物を引きずりながら空いてる席を探してコンパートメントを歩く。
クラリスがちらりと覗けば皆にこやかに席を勧めたが、後ろに控えるドラコの視線を受けるとスリザリン生以外は途端に渋い顔をした。
互いの反応を見て、空席か顔見知りを探すしかないことを悟ったクラリスは足を早めた。
やがて見知った顔ではあるが全くあてにできない人たちを見つけ、思わずあっと声をあげた。
ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人組だ。
ハリー達はドラコが見えないふりをしてクラリスに向けて笑いかけた。
「やあクラリス」
「久しぶりね」
「3人ともこんにちは。また学校でね」
挨拶を返し、クラリスは素早くその場を離れようとする。
「へえ、誰かと思えば」
後ろから覗いていたドラコは体でクラリスを押し留めハリー達に言葉を投げ掛けた。
「ポッティーのいかれポンチとウィーゼルのコソコソ君じゃあないか!」
ドラコは嫌らしい笑みを浮かべて2人を煽る。クラリスはまた始まった、と苦い顔をしてドラコをたしなめた。
「ドラコ、ここは空いてないから行こう」
「なぜ?懐かしのポッター達とおしゃべりしないのか?」
言い聞かせるように告げるクラリスに対し、ドラコは涼しい顔で返すと、次いでロンに目をやった。
「なあウィーズリー、君の父親がこの夏やっと小金を手にしたって聞いたよ。母親がショックで死ななかったかい?」
おちょくるようなドラコの言葉にロンが顔を赤くして立ち上がった。
勢いでそばにあった籠が大きな音を立てて転げ落ちる。
肩を跳ねさせてその音源へ顔を向けたクラリスは、3人の他に見知らぬ人物を見つけた。
「・・・・誰?」
疲れた顔をして眠る男を見て、クラリスは不思議そうにこてりと首をかしげる。
「ルーピン先生。おそらく闇の魔術に対する防衛術の先生よ」
ハーマイオニーの言葉を聞いてピクリとドラコの表情が動いた。
クラリスはそれを見逃さず、くるりと体を反転させグッとドラコの体を外に押し出した。
「じゃあ、僕たちもういくね。お邪魔しました」
ハリー達を振り返りながらクラリスがそう告げる。
その時だった。
列車がガクンと大きく揺れ、そのまま動きを止めてしまった。
明りが一斉に消え、あたりがバッと真っ暗になった。
隣にいる友人の顔さえ一切視認できない暗さだ。
「え?え!?なに!?」
先程までドラコの胸を押し退けていたクラリスだったが今では逆に身を寄せるようにしがみついている。
ドラコの方も、クラリスを守るためか、それとも自分が不安なのか、クラリスの背に腕を回しその手にギュッと力を込めた。
辺りでは他の生徒のどよめきが重なりあいざわざわと騒音となっている。
物音と悲鳴に不安と緊張が高まる中、クラリスのいるコンパートメントから一言声が聞こえた。
「静かに」
それほど大きな声ではなかったが、周りの生徒はみなその声に従った。
コンパートメントにポウと明かりが灯る。
光源を持ったルーピンは更に言葉を続けた。
「そのまま動かないで」
そう言うと、ルーピンは窓際へ移動しそこへ光を近づけた。
光を目で追ったクラリスはそこに全身黒尽くめの死神をみた。
その死神がゆっくりと長く息を吸い込むと、途端に底冷えするような冷気がクラリスの体を襲った。
寒さか恐怖か、カタカタと震えるクラリスをドラコが更にきつく抱き締める。
クラリスが死神から目を背けることさえ出来ずにいる中、視界の端で誰かが倒れた。
・・・・ハリーだ。
クラリスはハッとして倒れたハリーに目をやる。
ルーピンと対峙していた死神はそのままふと姿を消した。
死神、もとい吸魂鬼が去ったあとも、クラリスはしばらく口を開く気になれなかった。
呆然としていた2人だがひとまずは適当なコンパートメントに入って腰を落ち着けた。
そこで先ほど食べると元気が出るから、とルーピン先生に渡されたチョコレートを噛ってみて、ようやく体に体温が戻るような心地がした。
「これおいしい・・・・」
クラリスがポツリとこぼした。
ドラコはそれにふ、と小さく笑ったが、その顔はいつもより青白く見えた。
クラリスは心配そうにドラコを見上げた。
「ドラコ、大丈夫?」
「ああ。クラリスこそ・・・・」
クラリスを気にかけるドラコの言葉は途中で遮られた。
クラリスがチョコの欠片をドラコの口許に持っていったのだ。
「ドラコ、あーん」
「・・・・僕ももらった」
「いいの。ねえ、溶けちゃうよ」
クラリスは尚もチョコをドラコの口に放り込もうとしている。
ドラコは観念してクラリスの手からチョコを食んだ。
クラリスは満足そうな顔をして、自分の指に付着したチョコレートを舐めとった。
その様子をドラコがジッと見つめていた。
クラリスは行儀の悪さを咎めるその視線から気まずそうに目を反らすと、誤魔化す様に口を開いた。
「ね、さっきのルーピン先生、頼もしそうな人だったね」
「見かけによらず、ね」
「もしあそこにいたのがロックハートだったら大変なことになってたかも」
「退治しようとして汽車から落ちればいい」
2人の軽口が途切れると、コンパートメントの外の喧騒がありありと聞こえてきた。
他の生徒達はみな、先の出来事はなんだったのかとざわめいていた。
クラリスも、口を開けばあの死神のことしか話せないような気分になり、静かに口を閉じた。
しばらく揺られてホグワーツにたどり着く頃には生徒はみなかなり疲弊していた。
重い足取りでドラコの横を歩くクラリスを、誰かが大きな声で呼んだ。
「クラリス!」
「アギ!」
クラリスが振り替えると、そこには去年行動を共にした4人のルームメイト達の姿があった。
「ジャック、アカネ、ジキルも!みんな久しぶり!列車では大丈夫だった?」
「ああ、俺達は大丈夫」
「は!誰に聞いてんだ」
「既にディメンター並に厄介なのに囲まれてたからな、なんら問題ない」
「そっちこそ平気だった?抱きしめあって震えあがったりしてない?」
平然と返すルームメイト達。
ケラケラと笑いながら尋ねるアカネにクラリスとドラコは思わず固まってしまう。
図星だったことを察し、アカネは2人を指差し声をあげて笑った。
見知った顔と合流を果たし、クラリス達は大広間の席についた。
始業式は例年通り組分けの儀から始められた。
新入生を温かく迎え入れたあと、ダンブルドアからアズカバンよりディメンターが配置されることを伝えられた。
シリウス・ブラックの脅威から学校を守るため、魔法省が指示したらしい。
例の化け物が学校について回ることに生徒全員が顔を強張らせた。
ざわめく生徒たちの気を取り戻すように、新しい教職員の紹介が行われた。
リーマスの名があがり惜しみ無い拍手を送っていたクラリスだったが、次にハグリッドの名前を聞くと表情を固くした。
それは去年、勘違いしていたとはいえ、ハグリッドをホグワーツから追い出すよう根回しをしてしまったことに対する罪悪感からだった。
図らずしも周りに同調しているクラリスに、ドラコは少し不思議そうな顔をしたが、すぐに満足げな笑みに変わった。
「ドラコ、なんで嬉しそうなの?」
「別に」
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