君が好きだから無敵
幸せの家
2年生としてホグワーツに戻るまでの夏休みは、クラリスにとってかなり充実したものになった。
活発な母と寡黙な父は、ホグワーツから帰ったクラリスを出迎えるなりとにかく厚くもてなした。
もともと一人息子を溺愛していた夫妻だったが、会えない時間が一層愛を育ててしまったらしい。
実家に戻った日、クラリスはたまには、と両親と共に川の時で寝ることを受け入れたが、それが半月も続いたのでさすがにげんなりしてしまった。
「僕もう13歳になるんだよ?」
苦い顔で告げるクラリスに母はまあ、と眉を下げた。
「13歳のぼっちゃまはもう私たちと一緒に寝てはくれないの?」
「だって、一人で寝れないってバカにされちゃうよ」
「誰から?」
「・・・・ドラコ」
「やだわあフフフ。ドラコはクラリスをバカにしたいんじゃないわ。あの子は自分も一緒に寝たいからそういうことを言うのよ」
微笑ましそうに言う母を前にクラリスは返す言葉もなかった。
ドラコの名前にピクリと反応したのは父だった。
「そういえばドラコにも久しく会っていないな」
「ほんとね。そろそろ親子水入らずも邪魔して大丈夫かしら。シシーに連絡してみるわ!」
母はそう言うと早速ナルシッサにお伺いをたてるべくフルーパウダーを手にした。
連絡を受けたナルシッサは二つ返事で家族と共にクラリス宅を訪れた。
暖炉から緑色の火が灯り、その中から見知った人が顔を出す。
「ドラコ!久しぶり!」
「ああ。クラリスも変わりなさそうだな」
クラリスが真っ先にドラコに飛び付く。
ドラコもそんなクラリスを笑って受け止めた。
「元気そうね、クラリス」
「お久しぶりです、ナルシッサさん」
静かに笑うナルシッサにクラリスがペコリと頭を下げる。
急にかしこまった態度をとるクラリスを見てニヤニヤと笑みを浮かべるドラコであったが、自分もクラリスの両親には恭しく挨拶をするのであった。
そんな2人の後ろからやって来たルシウスは心配そうな表情を浮かべてクラリスに声をかけた。
「ああクラリス。体の方は大事ないか?君が秘密の部屋に連れて行かれたと聞いたときは心臓が・・・・」
「あ、あの、ちょっと待ってルシウスさん・・・・!」
クラリスは焦った顔でルシウスを引っ張り出した。
「パパとママにはその話してないの。だから、ルシウスさんも黙っておいて」
「話しておかなくて平気なのか?」
「だって、話したら絶対うるさいよ、2人とも。
僕、学校に行かせてもらえなくなっちゃう・・・・。だから、お願いします」
クラリスは深刻な顔でルシウスにペコリと頭を下げた。
必死に頼むクラリスを無碍にするつもりなどルシウスには毛頭なかった。
返事の代わりにくしゃりとクラリスの頭を撫で、ルシウスは改めてエルブレル夫妻に挨拶に向かった。
ドラコが来てからは一層目まぐるしい日々となった。
朝から晩まで、教科書やらスネイプからもらった本やらを広げ、呪文の練習に明け暮れる。
「フリペンド!」
クラリスの唱えた呪文は杖先にあったソファを見えない力で攻撃した。
ドラコは少し疲れた顔で杖を振った。
「一番上達するのはレパロだな・・・・」
「広いところで練習しようか?」
そうして庭先に出た2人は、代々伝わる大樹を危うくへし折りかけて揃って雷を落とされた。
クラリスの家は広く、客室もいくつかあるのだが、せっかくだからとドラコはクラリスの部屋に押し込まれた。
ドラコは若干不服そうだったがクラリスは笑顔でそれを受け入れた。
パジャマを着こんでドラコにぴったりくっつくクラリスの姿に、クラリスの母はわざとらしく驚いたような声をあげて見せた。
「あらあらまあまあ!私達と寝るのは嫌がってたのに、相手がドラコだとやけにご機嫌じゃない?」
「ほっといてよ!」
カア、と顔を赤くして睨むクラリスに母はホホホと笑って返した。
ドラコはクラリスに腕をホールドされたまま、気恥ずかしそうな顔をしている。
「2人とも、こっちを向きなさい」
目を細めた父がカメラを構えた。
素直にVサインを向けるクラリスと照れたように目線を外すドラコが対照的だった。
そうして夜になると、クラリスとドラコは大きいベッドに一緒になって寝転んだ。
ドラコのプラチナブロンドがさらりとシーツに広がった。
「ふふ」
「なんだ」
嬉しそうに微笑むクラリスに、ドラコは気恥ずかしそうに尋ねた。
「ドラコ、学校では髪を固めてたでしょ?下ろしてるの、久々に見たなあって」
クラリスはニコニコとそう言うと、そっとドラコの髪を撫でた。
「やっぱりこっちのが好き。さらさらしてて、きれい・・・・」
クラリスはうっとりとそう言った。
ドラコはその溶けた表情と声音から、クラリスが直ぐにでも寝落ちることを悟った。
「おやすみ、クラリス」
「うん、おやすみ・・・・ドラコ・・・・」
なんとか返事を返して、クラリスはすぅ、と眠りについた。
ドラコは優しい表情で笑い、その幸せそうな寝顔をいつまでも見つめていた。
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