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君が好きだから無敵
4

こうしてバックビークに襲われて負傷したドラコを、クラリスはそれでも甲斐甲斐しく見舞った。
木曜日、ようやく授業に復帰する気になったドラコは、右腕を包帯で吊り、ふん反り返って地下牢の教室へと向かった。
クラリスは心配だからと教室が遠くなるのを承知でドラコに付き添った。


「ドラコ、どう?ひどく痛むの?」


パンジーの問いかけに対し、ドラコは勇敢に耐えているようなしかめっ面をして「ああ」と答えたが、彼女が視線を外した途端、クラリスに向けてパチッとウィンクをしてみせた。
クラリスは何も返せなかった。
あの日、自分には何ともないと言って見せたのに、どうして周りには違うことを言うのかわからなかった。
ドラコはそんなクラリスにあからさまに機嫌を悪くした。

クラリスの次の授業は闇の魔術に対する防衛術だった。
教室まで駆けてきたクラリスを、ルーピンは穏やかな眼差しで迎え入れた。
ルーピンはマネ妖怪について一通り説明し、その退治の仕方をきっちりみんなに教え込むと、クローゼットを開いて生徒の前に放り出した。
みんな教えられた通りにリディクラスの呪文を唱え、ボガードは次々と姿を変えていった。

僕の怖いものってなんだろう。どうすれば笑えるか、なんて・・・・。
ぼんやりと考えこむクラリスの前に、いよいよボガードが飛ばされてきた。
ボガードはドラコへと姿を変えた。
ぐったり脱力していて血の気がない。
生気の感じられないそれは、恐らく死体だった。


「リディクラス!」


動揺を抑えてクラリスが唱えた。
パチン、と指を鳴らすような音が聞こえて、ドラコの死体はみるみる萎み、未就学児位の姿になると、その大きい瞳をパチッと開いて起き上がって見せた。
絹のような白い肌にうっすらと栄える頬の赤みがとても愛らしい。


「うわあ、懐かしい・・・・!一番可愛かった頃のドラコ〜〜!!」


クラリスはもっとよく目に焼き付けようとボガードへ近寄った。
ボガードはこちらに向かってくる喜色満面の笑みを認識するなりもう勘弁してくれとばかりにクローゼットに引っ込んでしまった。


「はい、お見事。無事に撃退できたね。いやあ、君たちは本当に仲がいい」


ニコニコ笑うルーピンにクラリスはキョトンとするが、少しして自分とドラコを指して言っているのだと気づいた。


「いやね、ドラコの方も似たような感じだったから」

「それって・・・・?」

「かわいかったよ、小さい頃のクラリス」


にっこりと告げるルーピンにクラリスの頬がカァー、と赤く染まる。
アカネがヒューッと冷やかすように口笛を吹いた。
授業が終わっても生徒達はボガード退治の話題で持ちきりで、クラリスもまだ幼い頃のドラコに思いを馳せていた。


「ああ・・・・。昔はあんなにかわいかったのになあ・・・・」


ぽつりとぼやくクラリスにアギが悪戯心で尋ねた。


「今は?」


クラリスは眉を八の字にした。


「・・・・かわいい・・・・」

「正気?」


アカネが奇怪なものを見たような顔をしてクラリスに言った。


「あれがかわいいならビーブスとだって仲良くなれるよ、クラリス」


クラリスの発言を疑うように言葉を重ねたアカネ。
ドラコとそこそこ気の合うジャックは力一杯抗議した。


「一緒にするな!ドラコは見た目だけなら美少年だぞ!」

「そう言うの日本では面食いって言うんだよジャック」


アカネは冷めた目でジャックをはねつけた。

こうして授業を受けるうちにあっという間に10月になった。
クィディッチももうじきシーズンだ。
各寮のチームが連日特訓に明け暮れる。
ドラコも完全復活とはいかなかったが練習には参加していた。
けれどやはり腕の傷は痛むと言うので、心配したクラリスはスネイプに相談し痛み止めの傷薬をもらってきた。


「ドラコ、腕を見せて」


入浴が終わった頃を見計らい、クラリスは薬と新しい包帯を持ってドラコのもとへ訪れた。
包帯の外れた腕は傷跡もよく見なければわからない程度には回復している。


「やっぱり動かすと痛みがぶり返す・・・・」


ムッスリした顔で薄い傷跡を睨み付けるドラコ。
クラリスは眉を下げてドラコの腕に触れ、優しい手付きで薬を塗った。


「試合までにはよくなるといいね・・・・」

「心配いらないさ。薬を塗ると、大分よくなるんだ。今はほとんど痛みを感じない」

「ならよかった」


クラリスはホッとして笑い、丁寧に包帯を巻き直した。
外れないようにきゅっと結び目を作り、早くよくなるようにとおまじないのようにキスをする。


「助かる」


包帯に目をやり、満足げに微笑むドラコ。
その数日後、クラリスは改めて傷薬をもらおうとスネイプの研究室を訪れた。


「先生、失礼します」


クラリスがひょこりと顔をだすと、スネイプは用件を察したようでうんざりと眉を寄せた。


「エルブレル・・・・。また傷薬か?」

「はい」

「Mr.マルフォイに薬はもう必要ないと、何べん伝えれば理解できるのかね?」


呆れたように告げるスネイプに、クラリスは眉を下げて食い下がった。


「けど、まだ痛みが続いているみたいで・・・・。でもこの薬を使うと楽になるって言っています」

「・・・・その痛みは精神的なものでは?」

「え?」

「我輩もマダム・ポンフリーも、傷は既に治癒していると重ねて伝えているだろう。
彼は君に構ってもらいたいから包帯を外さないんじゃないかと、微塵も思い当たりませんかな?」

「せ、先生・・・・いくらなんでもドラコはそこまで子供じゃありません」


クラリスはショックを受けたようにスネイプに言い返した。
スネイプはやれやれと首を振ってクラリスの手に傷薬の入った小さなを渡した。


「本当にそれが最後だ。まだ欲しいならMr.マルフォイをここに連れてきたまえ。我輩が直々に塗って差し上げよう」

「はい・・・・。ありがとうございます」


薬のやり取りを終え、スネイプは速やかに扉を閉めた。
釈然としないながらも、クラリスはそれを持ち帰り、ドラコに処置を施した。
とうとうその薬がなくなりかけてきた頃、クラリスはドラコに尋ねた。


「ドラコ、腕の調子はどう?大丈夫そうなら、包帯やめちゃおうか」

「包帯はいらない。・・・・けど痛むから、薬は塗ってほしい」


以前のスネイプの態度からして、ドラコを連れていってもいい顔はしないだろうな、とクラリスは思った。
スネイプから傷薬をもらうのは難しいだろう。
そこで、クラリスは母に頼んで保湿薬を送ってもらった。
せめてもの気休めになればいいと思ったのだ。
やはり薬を塗るのと塗らないのでは差が出るらしく、ドラコはそれをとても喜んでいた。


「随分楽になる」

「本当?」

「お前が甲斐甲斐しく世話してくれるから」


ドラコは感謝の気持ちを込めてクラリスの髪にキスした。
薬だけなら自分で、と言おうとしていたクラリスも、これには絆されてしまい、結局薬の塗布もクラリスが続ける流れになった。

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あきゅろす。
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