君が好きだから無敵
3
楽しかった夏期休暇も今日が最後だった。
2人は荷物をまとめ、ホグワーツへ向かう準備をしていた。
しかしクラリスは準備とは関係のないものにどんどん目移りしていた。
「あはは!なにこれ?なにこの本!」
クラリスはドラコがたった今縄で縛り付けようとしていた本を見てケラケラと声をあげた。
「何がそんなにおかしいんだ」
ドラコは顰めっ面で何度か噛まれた手を振っていた。
クラリスがそろりと指を伸ばすと、『怪物的な怪物の本』は凄まじい勢いで牙を剥きその指を噛み千切ろうとした。
クラリスはわっと小さく叫んですぐに手をひっこめると、やはりおかしそうに笑った。
「どうしようドラコ!この本ちっとも読めないよ!」
「どうでもいいが怪我するなよ。後で泣くのはお前だぞ」
奇怪な本を前にはしゃぐクラリスをドラコは静かな声で窘めた。
「はぁい」
クラリスは素直にそう答えて杖を振った。
本を浮かせて縛りドラコの鞄へと放る。
そうして次にクラリスの目に止まったのは月間予言者新聞であった。
「ねえドラコ、この新聞見た?ウィーズリー一家が写ってるんだよ」
クラリスがいそいそと紙面を開く。
ドラコはどういうことだと怪訝な顔をしてそれに顔を寄せた。
「なに・・・・?『アーサー氏はその幸運をもって今年の「ガリオンくじグランプリ」を当てた。アーサー氏は記者に対して「この金貨は夏休みにエジプトに行くのに使うつもりです」と答えた』・・・・?」
ピラミッドの前に立ち、家族一同満面の笑顔で手を振るその写真を、ドラコはどうでも良さそうに睨んだ。
「エジプト旅行でここまで喜ぶなんて、なんておめでたい一家だ。同情するよ」
ドラコのその発言にクラリスが非難の声をあげる。
「こういうのはどこに行くとかじゃないんだよ。家族みんなで行けたから、こんなに笑顔なんだよきっと」
「ああそうだろうね。こうも多いんじゃ誰が欠けててもわからないだろうけど」
ドラコはなおも興味なさげに切り捨てた。
クラリスもそれ以上食いかかることはなく、大人しく新聞をたたんでラックにしまった。
観念して荷造りに戻ったクラリスであったが、しばらくしてホグワーツのローブを手に取ると、静かに目を落とした。
「・・・・ねえ、夏休みの間、ずっと2人で一緒にいたね。変なの。一緒の学校に行くのに、逆に寂しくなっちゃう」
しんみりと言うクラリスを振り返り、ドラコは何でもないように返した。
「結局毎日顔を合わせるんだ。寂しがる必要がどこにある」
「うん・・・・」
それでも気落ちした様子のクラリスに、ドラコは小さくため息をつくと作業を止めて立ち上がった。
クラリスのすぐ目の前に来ると、こつりと額をつき合わせる。
「もう母上達にからかわれ続けるのにも飽きただろう。とっとと避難するぞ」
ドラコはクラリスを諭すようにそう言った。
何事かと構えていたクラリスはその言葉を聞いてくすりと笑った。
「ふふ、そうだね」
クラリスはやたらと2人に目を向け隙あらばカメラを取り出す両親を思い浮かべ小さく笑みをこぼした。
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