君が好きだから無敵
3
クラリスは杖を手にしたままハグリットの小屋へ足を進めていた。
危険な生物を扱う授業なら安全対策は万全でなくてはならないだろう。
みすみすドラコに怪我を負わせたハグリットにも言いたいことはあるが、何よりも当の猛獣に対し、クラリスは怒りが収まらなかった。
とにかく姿をみて、あわよくば退治してやる・・・・。
そう思いながら、クラリスは獰猛な獣が住む森に近づいていった。
「・・・・あれ、クラリス?クラリスだよね!?何してるんだいこんなところで!」
道中そんな声が聞こえ、##name_1#はピクリとそちらへ顔を向けた。
そこには物陰に身を隠すハリーがいた。
「あの、クラリス・・・・?」
クラリスの様子がいつもと違うことに気づき、ハリーが恐る恐る声をかける。
クラリスは怒ったような顔をしたまま口を開かずにいた。
その様子を見ていたハーマイオニーがクラリスに声をかける。
「・・・・クラリス、あなた、マルフォイのことで乗り込んできたのね?ハグリットのこと、怒りに来たんだわ」
クラリスは口を開かない。
無意識か、杖を握る手にぎゅっと力がこもった。
「待ってちょうだい。今回のことにハグリットに非は・・・・ないとは言えないけど・・・・原因はマルフォイ自身なのよ。この件でハグリットを責めるのはかわいそうだわ」
静かにそう説明するハーマイオニーを、クラリスはキッと睨み付けた。
「そうやって何でもドラコのせいにしないで!授業で危険な生き物を連れて来て、怪我をしたら自業自得!?そんなのってないよ!」
「クラリスの言いたいことはわかる!わかるけど、一旦落ち着いてちょうだい!
あなた冷静じゃないわ。私の目を見て。杖をしまって」
声を荒らげるクラリスに対し、ハーマイオニーは一貫して冷静を貫いた。
クラリスと向かい合うと、その肩に手をおき、じっとクラリスの目を覗いた。
怒りに満ちていたクラリスの瞳が、段々と涙で潤んでいく。
「ハ・・・・マイオニ・・・・っ」
「マルフォイが怪我をしてびっくりしたのね。大丈夫よ、クラリス。マルフォイにはちゃんとマダム・ポンフリーがついてる。きっとすぐによくなるわ。
だから、どうかハグリットの話も聞いてあげて。
彼にも至らない点はあった。けれど、決してマルフォイを傷つけるつもりなんてなかったのよ」
ポロポロと涙をこぼすクラリスに、ハーマイオニーが優しく語りかける。
少しずつ落ち着きを取り戻したクラリスは、やがてぐすぐすと目を擦り3人に小さく謝った。
4人はそのままハグリットの小屋を訪ねた。
ノックをして扉を開けると、かなり酒を煽ったのか、焦点の合わない目でハグリットが中に迎え入れた。
「こいつぁ新記録だ。一日しかもたねえ先生なんざ、これまでいなかったろう」
「ハグリッド、まさかクビになったんじゃ・・・・!」
「時間の問題だわ・・・・。
学校の理事達に知らせがいった、当然な・・・・。俺が初めっから飛ばし過ぎたって言うとる・・・・。
レタス食い虫かなんかっから始めていりゃ・・・・。イッチ番の授業にはあいつが最高だと思ったんだがな・・・・。みんな俺が悪い・・・・」
しょげきったハグリッドを前に、クラリスの怒りは瞬く間に消沈していた。
むしろ、ハグリッドの悲嘆につられてまた泣いてしまいそうな気さえした。
どう声をかけるべきかわからず困惑するクラリスをみながら、ロンが口を開いた。
「侮辱したりするとヒッポグリフは怒るって、ハグリッドはそう言った。聞いてなかったマルフォイが悪いんだ」
そう言い切るロンに、クラリスは何も言い返さなかった。
どういう状況でドラコが襲われたのか、その言葉でなんとなく想像できたからだ。
クラリスは再びハグリッドを見た。
誰より大きな筈の彼が、今ではとても小さくか弱く見えた。
ハグリッドはようやくクラリスに気づいたようで、おお・・・・と唸るように喋り出した。
「クラリス・・・・。お前さんもきちょったのか・・・・。すまねえ・・・・すまねえなあ・・・・。お前さんの大事な兄貴分を傷付けっちまった・・・・」
そう言って机に伏して咽び泣くハグリッドを見て、クラリスは思わず手を伸ばしていた。
宥めるように背中をさするクラリスに続き、3人もどうにかハグリッドを慰め、元気づけようと声をかけた。
しばらくすると、ハグリッドはどうにか気持ちを切り替え、4人にありがとうと礼を述べた。
「なあ、会いにきてくれて、ありがとうよ。ほんとに俺・・・・」
言いかけたハグリッドは急に動きを止め、まるでハリーがいるのに初めて気づいたようにじっと見つめた。
「おまえたち、いったいなにしちょる。えっ?」
ハグリッドがあまりに急に大声を出したので、4人してして30センチ程跳び上がった。
ハグリッドは繰り返し暗くなった後の危険を説き、もう来るなと言って4人を校舎へと送り返した。
そのまままっすぐ寮へ戻ると、クラリスは食事もとらず部屋に閉じこもっていた。
帰ってきたクラリスを見て安心したルームメイト達だが、この有り様に心配したり、呆れたり、苛ついたりと色々忙しそうだった。
「〜〜っおい、いつまでもうじうじしてんな!別に怪我は何ともなかったろうが!」
「うん・・・・」
怒鳴りつけるジキルにクラリスが弱々しく返す。
シンと静まり返る室内に、はあ、とアカネの大きなため息が響いた。
「クラリス。少しは説明してくれない?お前、今までどこに行ってたわけ?」
「アカネ・・・・」
トゲのある言い方で尋ねるアカネをアギが止める。
クラリスはしばらく間を置いて、次いでポツリと答えた。
「・・・・ハグリッドのところ」
その答えに4人全員が絶句した。
それに気づいているのかいないのか、クラリスはそのまま話を進めた。
「ハグリッドから話を聞いてきた。俺が悪いって、泣いてた。でも、本当はドラコが悪かったみたい」
淡々と、私情を挟まないように、クラリスが事実を告げる。
無機質なトーンで話すクラリスに危ういものを感じ、アギが止めようと口を挟んだが、それでもクラリスは言い切った。
「クラリス・・・・」
「ドラコ、意地っ張りだから、悪ぶって、無茶もして・・・・。本当は僕と同じで恐がりなのに・・・・。
・・・・もっと穏やかな世界で生きてて欲しいだけなのに、なんでこんなに難しいんだろう・・・・」
みんなに向けて話した、というよりは単に吐き出した、という方が近かった。
クラリスはそのまま逃げるように目を閉じた。
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