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小説
第二十八話(R18)
「さて、では」

節子に馬乗りになった女は、節子の浴衣を乱暴に引き剥がした。
余りに強引に引っ張られたので、端の生地が破れてしまった。
蛇神に折角あつらえて貰った浴衣が、無残な姿になった。

裸体を晒した節子は、ぶるぶると首を振った。
これから為される事など、誰に聞かずとも分かってしまう。

目の前には醜怪な男根の数々。
触手と表現した方がいいだろう。
蛇神とは似ても似つかぬ醜さばかりを纏い、節子を睨みつけて来る。
周りに居る農夫も、誰一人止めようとしない。

「やめて下さい」
「やめろと言われてやめる空け者が何処に居ると思う?」

女はせせら笑った。
節子の頬に涙が滲んだ。
自分を護ってくれる者が誰一人居ない現実が恐ろしくて仕方なかった。
勿論、自分一人が幾ら抵抗しようと、この禍々しい存在から逃れられるとも思えない。

「余も貴様と同じように泣き、喚いた。
何でもするからやめてくれと請い願った。
だが、誰もそれを聞いてなぞくれなかった」

女は節子の胸を鷲掴みにした。
容赦ない力で掴まれたせいで、鈍痛が走った。
痛みに顔が歪む。

しかし、そんな事で女が怯む筈もない。
寧ろ、痛がっている節子を見て楽しんでいる風もある。

「貧相な身体だが、蛇神とやらは貴様の何処を気に入ったのだろうな?」

胸の頂きを爪で挟み、ぎちぎちと強く捻り上げられた。
まるで太い針を突き刺されたようだ。
胸の頂点だけが引き千切られそうだ。

行き過ぎた痛みに悲鳴が上がる。
その声を聞き、また女が笑う。

女は節子の胸を一頻り甚振り、身体を起こした。
そして、元居た米俵の上に座り、緩慢とあぐらを組んだ。
女に付いている肉芯の触手も、動きに合わせてぬらぬらと蠢いている。

節子の胸には、傷が出来ていた。
きつく爪の跡が残り、薄らと血を滲ませている。

このまま好き勝手に痛め付けられるのかと思うと、ぞっとした。
だが、逃れられない。

「やれ」

女が農夫達に目配せした。
その途端、今まで人形のように動かなかった沢山の男達が、菓子に群がる蟻のように、節子の傍に寄って来た。

農夫の数人が、各々の下穿きをずらした。
そこから現れた薄汚い肉棒は、全て空を仰いでいた。
先程、節子が甚振られているところを見て興奮したのだろうか。

顎を捕まれ、無理矢理口を開けられた。
息を吸う間もなく、その隙間に肉棒を突っ込まれた。
青臭い臭いが口内一杯に拡がる。
泥のような臭いもあった。
だが、節子の口に男根を放り込んだ男は、更に奥へ入れようと強く腰を沈ませてくる。

息苦しかった。
強烈な臭いは耐え難かった。
喉の圧迫に、嗚咽すら漏れた。

それでも、農夫の男が止める気配は無い。
それどころか、余計に興奮しているように見える。

いっそ噛み千切ってやろうかと思った。
だが、こんなにも醜い物を噛むのも憚られた。
余りに嫌悪が先行して、歯を立てる事すらも抵抗を覚えた。

他の農夫達も、取り出した男根を節子に擦り付けていた。
早く快楽の天を見た者の何人かは、その尖端から白い汁を飛ばしていた。
一層生臭い臭いが節子の鼻を掠めた。
心底吐き気がした。

縛られた足を掬い上げ、節子の股座を舐める者も居た。
股の肉を掻き分け、小さな陰唇すらも拡げ、べろべろと舌を動かしている。

節子の下肢は、あっという間に農夫の汚い涎塗れになった。
時折、陰の入り口に舌を差し込まれた。
ナメクジがのた打ち回っているような不快さがあった。

尻の後口にも指を突っ込まれた。
つい昨夜まで蛇神に可愛がられていたその場所は、いとも容易く男の指を飲み込んだ。

しかし、快楽など微塵もなかった。
あるのはただ乱暴な痛みと、不躾な緩急だけだ。

「どうだ。
見ず知らずの男達の魔羅は」

女は節子を見て笑った。
高みの見物と決め込んでいるのだろう。

節子の口に陰茎を差し込んでいる男が、節子の顔を抱え、強引に腰の抜き差しを始めた。
益々喉を刺激され、今度こそ吐瀉しそうになった。

胃が噎せ帰る。
鼻がつんとして、鼻水が出る。
涙で前が霞む。
身体に食い込む縄のせいで、身動きも取れない。

嫌悪感で、意識が朦朧とした。
無理矢理こじ開けられた奥歯も痛い。

「歯は立てるなよ。
少しでも当たれば、貴様の顎を砕き折るからな」

顎に力が入らなくなりかけた頃、それを見越していたように女が言った。

そうは言われても、うまく力が入らない。
少しでも気を抜けば、農夫達の怒張した肉芯を噛んでしまいそうだ。

自分の歯や舌が醜い男根達に触れるのは嫌だった。
だから、出来る限り舌を引っ込め、歯を当てないようにした。

だが、そんな無理な形など、すぐに疲れてしまうのだ。
顎がびきびきと引き攣る。

「今の貴様のように、贄にされた者の中には、数多の男に姦された女も居た。
清めだの洗礼だのと称してな」

腕を組んだ女が、緩慢と言う。
その言の葉が、節子の耳を上滑りしていく。

節子の股座を執拗に舐めていた農夫の一人が、顔を離した。
そうかと思えば、自身の下肢の履き物を緩め、張り裂けんばかりの肉棒を取り出した。
そのまま、涎塗れの節子の陰に宛がう。

来る最悪の悪夢に、節子は発狂した。
こんな所で破瓜を奪われるなど我慢ならない。
蛇神とは、後穴しか用いていないのである。

「では、余の記憶を辿るがいい」

女の言葉を合図に、農夫の肉芯が強引に節子の体内を貫いた。
張り裂けるような痛みがあった。
ぶちぶちと何かが千切れるような音、腰の骨がごりごりと移動する音を聞いた。
余りの痛みに、目の前が真っ赤に染まった。

こんな事ならば、全てを蛇神に差し出しておけば良かった。
蛙達の言う事をきちんと聞き、出雲から出なければ良かった。

恐怖と絶望と羞恥の中、節子は有らん限りの力で蛇神の名を心内で呼んだ。
勿論、それに返事をする者は居なかった。
ただ赤一色に視界が拡がっていくだけだった。
それと並行して、引き千切られるような痛みが下腹部に何処までも続いた。

不意に、身体の感覚が遠退いていった。
宙に浮かんでいるような浮遊感があった。
目の前の景色も変わった。
薄汚れた農夫達の代わりに、狂乱染みた老婆が映った。

先程まで居た、鬱蒼とした雑木林も無かった。
湖も無い。

此処は何処なのだろうか。
ぽつぽつと灯る蝋燭が幾つか見受けられるが、辺りはひんやりとして仄暗い。

老婆はぶつぶつと何かを呟いていた。
呪いの響きさえも感じさせる、おどろおどろしい言葉だ。

自分に何が起きたのか分からないまま、節子はその声を聞いていた。
相変わらず言葉は発せなかったが、先程まで放り込まれていた男根が口内にある訳では無かった。
代わりに、猿轡を噛まされている。

一通り何かを唱え終えた老婆が、太い杭を手にした。
そして、「神の元へ行くがいい」と言った。

老婆が何を言いたいのか、節子にはさっぱり分からなかった。
だが、その言葉の意図など考えられない程の痛みが、すぐさま全身を襲った。
老婆が杭を節子の身体に打ち込んだのである。

節子は猿轡を咥えたまま、絶叫した。
杭を差し込まれた場所から、どくどくと血が溢れた。
老婆がまた新しい杭を手にした。
そして、再び節子の身体を穿つ。

頭がおかしくなりそうだった。
それなのに、逃げられなかった。
老婆がどんどん杭の数を増やしていく。
その度に、身が弾け飛ぶような激痛が訪れる。
余りに激しく絶叫したので、金切り声が頭に上り、髪の毛も全て抜け落ちた気がした。

また視界が赤くなった。
節子は、自分はもう死んでしまったのだと思った。

そうかと思えば、再び新しい視界が拡がった。
赤い旗が目の前で揺らめいている。
ぱちぱちと火の爆ぜる音がする。

旗かと思ったそれは、激しく燃え上がる炎だった。
節子は、火の中に居た。
それなのに、今度も逃げられない。
猿轡は外れていたが、身体が何かに拘束されている。

遠くで節子の姿を見て拝む者達が居た。
業火に燃やされる節子を見て、何かを願っているように見えた。

節子の身体はみるみる爛れていった。
ずるりと皮膚が剥け、肉の焦げる臭いがし、骨が見えた。
熱い、という一言では済まされない苦しみがあった。
身体が焼け焦げていくのは、強烈な痒みと痛みを伴った。
そんな中、己を見て手を合わせている人達の顔が、炎と共に目蓋に焼き付いた。

そこでまた視界が赤くなった。
今度は、遥か頭上から己を見下ろしている人達の姿が見えた。
手に木鋤(こすき)や鍬を持っているようだ。

節子を囲む四方は狭く、すぐ傍には土で出来た壁があった。
どうやら己が地を掘った穴の中に放り込まれているらしい事は、すぐに察する事が出来た。

節子を見下ろしている一人が「済まないね」と言った。
その直後に、どさどさと土が降ってきた。

生き埋めにされるのだ、と思った。
総身に被ってくる土は、存外重たかった。
土で覆われ、何も見えなくなれば、息も出来なくなった。
それなのに、「済まないね」という声だけが、その後も何度も聞こえていた。

そこで、また視界が赤くなった。

立て続けに起きる苦しみに、節子は困苦した。
何故、自分ばかりがこんなにも悲惨な目に遭わなければならないのか。
己に一体何が起きているのだろうか。

先程、女は「余の記憶を辿るがいい」と言っていた。
そもそも女は、過去に生贄にされた者達の恨みが集まった怨霊だ。

それならば、この不可解な苦しみの数々は、過去に生贄にされた者達の記憶なのだろうか。
節子は、その記憶の一つ一つを旅しているのだろうか。

昔の生贄の者達は、こんなにも壮絶な経験をしてきたらしい。
酷すぎる惨状に、節子は泣きそうになった。

誰も助けてくれない中、自分一人だけが見捨てられる。
命を削り取られる。
その苦しみがこんなにも惨かったとは、想像の枠を超えていた。

その後も、節子は発狂しそうな惨劇を幾つも経験した。
沼の中に放り込まれたり、滝壷に落とされたり、野犬に食われたりした。
そして、指を一本ずつ切り落とされたり、爪を剥がされたり、目玉を抉られたりもした。

その度に、自分を見て何もしてくれない他の人間達の顔が目に付いた。
時に済まなさそうに、時に無表情に節子の命を奪っていく沢山の人間の顔が忘れられなかった。
仕舞いには、その者達が憎くさえ思えた。

こんなにも己は苦しんでいるというのに、どうして誰一人として助けてくれないのだろう。

そう思うと、薄情な者達を罵りたくなった。
八つ裂きにしたくなった。
お前達もこの苦しみを味わってみろ、と言いたかった。
同じ目にあわせてやりたかった。
胸の内は、みるみる黒くくすんでいった。

その憎悪に飲み込まれそうになった時、また視界が変わった。
新しく訪れた景色は、最初に居た鬱蒼とした雑木林の中だった。
元居た場所に戻って来たらしい。

男根を露にした農夫達が沢山居る。
俵の上には、相変わらず遠見している女も居た。

「どうだ、気分は」

女に尋ねられても、男の陰茎を詰め込まれているので、言葉を発する事が出来なかった。
仮に口を開放されていたとしても、何も返す事など出来なかったかもしれない。

立て続けに経験した惨事が、その苦しみが、まだ脳内に残っている。

女が続けて言った。

「今のは過去、贄にされた者の一部の記憶だ」

やはり、と節子は思った。
先程までの痛々しい記憶は、生贄の犠牲者になった者達のものだったようだ。

節子の股座に肉棒を抜き差ししている者が小さく呻いた。
膣内に精を吐き出されたらしい。
そのすぐ直後には、また違う男が割り込んできた。
そればかりか、尻の後口にまで興味を示す者が出て来た。

身体は農夫達の精液でべたべたになっていた。
節子が様々な生贄の者達の記憶を渡り歩いている間も、絶え間なく犯されていたのだろう。
そういえば、此処の世界も女の記憶の中だと言っていた。

何処から何処までが現実で、何処から何処までが夢や記憶の中なのか、節子は分からなくなった。
ただ、何処に行っても苦痛ばかりが付き纏う。
それだけは確かだ。

「まだ苦しみは続くぞ、娘よ」

女が言うと同時、再び節子の視界が赤く染まった。
そして、更に異なる生贄の記憶による映像が始まった。





TO BE CONTINUED.

2009.04.11

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