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小説
第十六話(R15)
温かい羽毛布団に包まれて、節子は寝返りを打った。
心身共に疲れきっている。
ここまで疲労したのは初めてかもしれない。

数時間前、不可解な事件に巻き込まれた節子は、家に帰るなり、泥のようにベッドで眠りに付いた。
おかしな事に、部屋は一切荒れていなかった。
窓も割れていなかった。
切れていた筈の電気も直っていた。

黒狐は、節子達と逸れ、また何処かへ行ってしまった。
他にもする事があるのだと言う。

茶蛙は常に蛙姿を取り、正式に節子の護衛をする事になった。
蛙を連れ歩いている変な女子高生だと思われるリスクはあったが、この可及的な状況でそのような我儘も言っていられなかった。

しかし、外出の際は、極力鞄の中から出て来ないようにとお願いした。
家に帰って来た時も、目立たない場所に居るよう言った。

行動を制限された茶蛙は不服そうに文句を垂れていたが、最後には渋々納得してくれた。
今も、節子が眠りに入っている中、近くの箪笥の影に居てくれている筈である。

夜明けに帰宅したものだから、節子は寝不足だった。
だが、今日も学校はある。
塾だってある。
勉強は待ってくれない。
その為、休める間は少しでも休んでおかなければならなかった。

心身は疲れ、且つ中途半端に高揚していたが、布団に包まれた瞬間、深い夢は両手を広げて節子を迎えてくれた。
勿論、寝る前に新しい寝間着も着た。
流石に裸のまま眠る訳にはいかなかったからだ。

節子は、またころりと寝返りを打とうとした。
しかし、身体を動かしたと同時に、その上に乗っていた重みが軽くなった。
布団がずり落ちてしまったのだろうか。
或いは、蹴飛ばしてしまったのだろうか。

目を閉じたまま、手探りに布団を探してみる。
手は二、三度宙を彷徨ったが、すぐに何かを手繰りよせる事が出来た。
それを強く抱き締めれば、夢見心地の中、ふわりと桜の香がした。
柔らかな絹が、優しく胸を撫でる感覚もあった。

「う、ん」

節子は軽く唸った。

胸を撫でていた絹の感触が、するする下方へと落ちて行く。
腰も摩られた。
心地良いが、くすぐったい。

身動ぎすれば、今度は股の辺りを撫でられた。
不完全な快楽に、総身が泡立つ。
何だかもどかしいような気にさえなって、両足を擦り合わせた。

その足を分け入って、股座の陰に違和感があった。
ひんやりと冷たい物が当たったのだ。
そうかと思えば、その冷えた物体は、ゆるゆると陰唇を往復し始めた。

未だ眠りの中だというのに、ぴりりと痺れる電気が背を走った。
片足が不自然に浮いた。

胸の頂に、ちりちりした痛みがある。
桜の香も、また一段と強くなる。

「あっ」

節子は溜まらず声を上げた。
自身が上げた声に驚いて、閉じていた目蓋もばちりと開けた。

一番に映ったのは、青い垂れ幕だった。
起きたばかりの目に薄らとけぶる、美しいベルベットのような海の色だ。

じっと見ていると、寝惚けた眼の焦点が段々と合ってきた。
カーテンだと思ったその青は、誰かの瑠璃色の髪のようだった。

「ええ?」

吃驚して目を擦った。
すると、その人外色の髪を持った相手の顔がよく見えた。

女のように繊細な相貌、涼しげな眼差し、白い肌。
目が合ったその男が、口元を吊り上げる。

「目が覚めたかい、セツ」
「蛇神様!」

思ってもみなかった人物に、節子は大きな声を上げて半身を起こした。
節子のすぐ横に同じように寝転んでいた蛇神が、目も和らげて笑う。

節子は動揺した。
矢庭に身体を起こしたせいでやや眩暈がしたが、驚きの方が勝っていた。

目を白黒させていると、蛇神がゆっくりと手を伸ばして来た。
その手に捕らわれた瞬間、またベッドに転がる事となった。
しかも、今度は蛇神の腕の中だ。

節子が日頃使っているベッドは、シングルだ。
お陰で、二人の密接した距離も非常に近い。

抱き締められると、焚きしめた優しい香がした。
先程、桜の香りがすると思っていたのは、どうやら彼の香りだったらしい。

頬を包まれ、上を向かせられる。
おずおずと目を開けば、蛇神はその目蓋の近くに唇を落として来た。
冷たくて柔らかくて、とても心地いい。

けれど、何故彼が此処に居るのだろう。

寝不足、且つ寝起き間もない状態だったが、節子は纏らない頭で必死に考えようとした。
だが、現状を理解しようとしている節子を無視して、蛇神の手は淫らに動き始めた。

気が付けば、寝巻き用の衣類は酷く乱れていた。
開け放されたシャツから、両胸が剥きだしになっている。
ショートパンツと下着はずり下ろされ、辛うじて片足に掛かっているだけだ。

いつの間にこんな格好をさせられたのだろう。
節子が眠っている間に、蛇神が脱がしてしまったのだろうか。

そのような問いは、この相手に通用しない事だと分かっていた。
しかし、寝起き早々このような事をされるとも思わなかった。

蛇神の指が、背中から腰へと落ちて来た。
そこから、まるで焦らすように下方へ下方へと落ちて来る。

彼の指先が、尻肉の割れている先端へと触れた。
節子の身体も、びくりと強張る。
そのか弱げな反応すらも面白いのか、蛇神は勢いよく尻たぶを掴んできた。

「嫌っ」

節子は小さく悲鳴を上げた。
だが、蛇神に抱き締められ、節子自身も蛇神に縋りつくような体勢になっていたので、その声は彼の胸の中で消えてしまった。

節子の尻肉に触れる彼の手は止まらない。
それどころか、いたずらに更に強く揉みしだいてきた。

尻の肉が上下左右に揉まれれば、女の陰も引っ張られてしまう。
引っ張られれば、吊られた陰唇がぱくぱくと口を開ける。
その様の仔細は、自身でも分かった。
蛇神の手付きに合わせて、それは貪欲に餌を求める鯉のようになっている事だろう。

恥ずかしくなって、蛇神の胸元を小さく叩いた。
そこでやっと彼は手の力を緩めてくれた。

「昨夜は、随分酷い目に遭ったようだね」

蛇神の声は落ち着いていた。
恐る恐る顔を上げてみる。
彼は、相変わらず優しい目をしていた。

蛇神は、整い過ぎた故に些か冷たい顔をしているが、やんわりと笑う笑顔はとても優艶なのだ。
この顔が好きだ、と節子は思った。
彼が微笑めば、それだけで何処か安心出来る気がした。
この感情は、恋に似ているかもしれない。

節子の尻にあった手が、ゆるゆると肩まで上がって来た。
そして、互いの身体をやや離してくれた。

どうしたのだろうと上目遣いにじっと眺める。
彼は、身体を触るだけで満足したのだろうか。
そもそも何がしたかったのだろうか。

陵辱される事を望んでいた訳では無かったが、これは余りにも中途半端な気がした。
その内心を読み取ったのか、蛇神がすっと目を細める。

蛇神は、何も言わずに節子に圧し掛かってきた。
抱き締められる体勢から、組み敷かれる形となってしまった。

節子を見下ろす美丈夫は、その名の通り、蛇のようだった。
獲物を狙う獣のように、酷く据わった眼差しをしていた。

蛇神が身体を屈ませ、耳裏に口付けてきた。
節子は、またぞくりとした。
覚束ない快楽が、鎮まっていた底から湧いてきた。
胸も不安定に高鳴る。

「酷い目に遭った割には、そなたの身体は悦んでいたようだ」

耳元で囁かれた。
それと同時に、胸の頂を強く摘まれた。

痛みと官能の狭間にある刺激に、節子は背を撓らせた。
蛇神の手は止まらない。
それどころか、足さえも抱え込まれてしまった。

そのまま大きく股を拡げられた。
股座が、蛇神の顔の至近距離で露になった。

もう尻肉は揉まれていないというのに、鯉と化した陰唇が貪欲に口を開けている気がした。
蛇神の刺すような視線に屈服し、自ら大口で構えているのだ。

そこから涎は垂れていないだろうか。
女の官能を知らせる汁が溢れてはいないだろうか。

「嘆かわしい事だね。
そなたは私の巫だというのに」

蛇神は舌を伸ばし、開いた節子の陰を突いた。
予測していなかった快なる刺激に、節子の下半身は激しく跳ねた。

彼が触れた先から、尻たぶ、そして背中の方まで強い緊張が走る。
じっとなどしていられない。
しかし、暴れないよう両脚を強く固定されてしまった。
これでは逃げる事も出来ない。

陰唇を更に指で広げられた。
開かれた節子の陰に、蛇神がまた妖艶に笑った。
余りに近くに顔を寄せられたので、彼の吐息すらも節子を官能的に責めていく。
欲情を帯びた彼の視線の熱に負けた女陰は、今にも蝋のように溶けそうだ。

びりびり痺れるような感覚があった。
それなのに、膣口がむず痒くなる。
身体の一番奥にある肉壁が、新しい悦楽に期待して収縮しているのが、自分でも分かってしまう。

節子はなけ無しの理性で抗った。
だが、彼が緩慢と瞬きをすれば、その瞬間に金縛りのように身動きが取れなくなってしまった。
身体の自由が全く利かなくなったのだ。

驚いて蛇神を見る。
だが、彼はその術を解いてくれる様子も無い。
愉快そうに笑むだけだ。

蛇神が、節子の陰核に向かって息を吹き掛けた。
動かない総身に、逃げ場の無い快楽が暴れ回った。
膣口がひくひくと蠢いているのが分かる。
熱い何かが、とろとろと漏れ出している感覚もあった。

「そなたの初めての官能の極みが奪われてしまうとはね。
破瓜も誰かに取られる前に、いっそ此処で頂いてしまおうか」

そう言って、蛇神は節子の肉の芯を軽く噛んだ。
女の一番の性感帯だ。
節子は勢いよく反応した。
動かない身体で、小さく痙攣もした。

そのまま数度甘噛みされたかと思うと、今度は強く吸われた。
そこから快感の糸が引っ張り出されているような感覚があった。
足の爪先に不自然な力が入る。
急性な熱に、じっとりとした粘ついた汗まで出て来た。

節子は悲鳴にも似た嬌声を上げそうになった。
恐怖なのか、女としての悦びなのか分からなかった。

だが、此処は我が家だ。
妙な声を上げてしまえば、両親も訝しむ事だろう。

節子は必死で唇を噛み締めた。
こんな破廉恥な場を父母に見られるなど、耐えられる筈が無い。

その節子の必死の抵抗など露知らず、官能の核ともいえる雛尖を赤子のように弄り回す蛇神。
時に唇で引っ張ったり、舌先で突いたりする。
その度に、新しい快楽の血潮が節子の下半身を中心に暴れ回った。
もはや目を開けてさえいられなくなった。

女陰の縁を指の腹で撫でられる。
中に指を差し込まれなくても、それだけで異物を入れられた錯覚に陥ってしまう。
膣壁が有らん限りの力でぎゅうぎゅうと収縮する。
与えられる快楽は行き場を無くし、下半身から臍へ、そして胸、頭の天辺まで駆け上がってきた。

身体からはち切れそうな悦楽の波は、針のように皮膚全てから突き破って行きそうだった。
下腹部に集まっていた痒みが、おかしな蠕動に変わっていく。
その瞬間、派手に目蓋の奥が弾けた。
全ての幕を下げられたように、一瞬にして真っ白になった。
それなのに、蛇神の存在だけが濃くなった気がした。

「蛇神、様っ」

節子は、下半身を相手に押し付けるようにして絶頂を迎えた。
艶のある声は、もう抑えられなかった。
肉の芯から女陰まで、全てが吹き飛んだように思えた。

尻の肉がぶるぶると震え、その振動で、滲み出ていた汗が落ちていく。
息も不規則に乱れる。

節子は、昨晩も無理矢理オーガズムを味わわされた。
だが、昨晩の際は余韻に浸る間もなかった。
絶え間ない暴力的な快楽だけがあった。
果ての無い低い場所に無理矢理落とされていくようだった。

蛇神の与えてくれる快は、それとはやや異なるように思う。
最後に爆ぜる感覚は同じなのだが、そこに行きつくまでの過程が違う。

昨夜の快楽の行き先が奈落の底だというのならば、蛇神の手管は頂点まで引き上げていくようだった。
両手両脚を雁字搦めに縛られ、真っ白で高い世の極みに連れて行かれる。
されている事は同じだというのに、何かが違うのだ。

そういえば、昇り詰めた最後の瞬間に思い浮かぶものもあった。
蛇神の顔だ。
そのせいで、つい彼の名を叫びながら達してしまった。

昨晩の化け物の主の際には、それが無かった。
ただ地底の底に叩き付けられたようだった。

訳も分からぬ間に突然やって来た官能の果てに、目を瞬かせる。
蛇神は、そっと身体を離してくれた。
まだ下肢はじんじんと痺れていたが、彼が離れた事で、気早な快楽からも解放されたのだと分かった。

荒い息のまま、蛇神を見る。
彼は柳眉の端を下げ、節子の頭を撫でてくれた。

「すまなかったね、少々やり過ぎた」

先程の性急な触れ方とは打って変わって、彼は申し訳無さそうに言う。
そのしおらしい言い方に、また抗議のタイミングを逃してしまった。





TO BE CONTINUED.

2009.02.23

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