小説 第十三話(R18) 嫌悪を覚えた節子は、身を捩って逃げた。 だが、すぐに捕らえられてしまった。 身体を地に叩きつけ、馬乗りになられる。 世の者とは思えぬ恐ろしい顔が近付いてくる。 「嫌だ」 節子は震える声で言った。 大声で叫び出したくとも、恐れが先行してそれも出来ない。 すぐ傍では、伊織が引っ切り無しに喘いでいる。 尻肉をぶるぶる震わせ、突っ込まれた男根達を食わんばかりだ。 時折、面白いくらいに総身を跳ねさせるのは、絶え間ないオーガズムのせいだろうか。 腰を引き、快感をじっと体内に溜め込もうとしている。 そうかと思えば、その枠に収まりきれなくなった悦にすぐに全てを奪われ、腰を突き出している。 その繰り返しだ。 伊織だけではなく、他の女もそうだった。 もう喘ぐ元気もない者は、ただだらしなく股を開き、与えられる官能に酔っている。 涙を零し、鼻水も垂らし、涎を溢れさせている。 尿を漏らす者も少なくない。 狂宴は、到る所で開かれていた。 尻ばかりを責められている者、一度に何本もの男根を膣内に入れられている者、胸から母乳を出している者。 女達は、数多ある化け物の肉塊を一身に受け、ただひたすらに悦楽に溺れている。 節子もそうなるのだろうか。 考えたくなどなかったが、落ちて行く自身を想像して吐き気がした。 目の前には、どう足掻いても受け付けない不気味な化け物。 かさついた皮膚で、節子の身体を撫でている。 時折、長い爪が皮膚に突き刺さった。 乾燥した手とは裏腹に、化け物の下肢からは、磯巾着のような性器が生えてきた。 先端はぬるぬるとてかっており、中には白い汁を飛び散らせているものもあった。 その一つ一つは正しく男の男根そのものの形をしていた。 それらはミミズのように不安定に蠢き、長いもの、短いものもある。 伸縮も自在なようだ。 伸びた触手状の性器は、今まで節子を縛っていた縄をあっという間に解いてしまった。 そして、自らが縄の代わりとなって四肢を捕え、益々身動きを取れなくさせた。 残った触手達は、節子の胸を行き来し始めた。 胸の頂をつんつんと突かれれば、節子の腰も震える。 不快だと分かっていても、身体が反応してしまう。 節子は今度こそ泣いた。 涙が次から次へと溢れて来た。 暴力的な恐怖が全身を覆った。 それなのに、逃げる道は何処にもない。 護衛の茶蛙も、傍に居ない。 ぎゅっと目を瞑った。 来る恐ろしい事から少しでも目を逸らしたかった。 すると、節子の胸を行き来していた物が、急にぴたりと止まった。 四肢を拘束していた蠢く触手も、凍ったように動かなくなってしまった。 恐る恐る目を開ければ、化け物の背後にまた違った人物が居た。 蛇神でもない、蛙でも、黒狐でもない。 涙目の中でぼんやり映ったのは、この空間の中でも異彩を放つ、冷たい顔をした男だった。 その手には長い日本刀を持ち、刃先を化け物の首元に当てている。 男は、顔に見合わぬしゃがれた声で言った。 「その娘は、神の巫だろう」 その科白に、化け物がおずおずと触手を引き始めた。 お陰で、縛られた節子の身体は解放される事となった。 どうやら助けられたようだ。 節子の恩人とも言えるその男は、ほぼ半裸状態の化け物達とは違い、また変わった格好をしていた。 中世の武士のような姿だ。 侍烏帽子を被り、大紋の直垂(ひたたれ)という着物を着ている。 腰には刀を差していたので、それを抜いたのだろう。 「すぐに余の所へ連れて来いと言った筈だ。 この虚け者が」 男が声を荒げると、化け物は飛ぶように逃げていった。 女達を囲っていた周りの化け物達も、ぴたりと動きを止めてしまった。 此処の化け物達は、この男に頭が上がらないようである。 皆の長なのだろうか。 「まずは、よく来たと言うべきか」 刀を戻した男は、節子を見下ろしながら言った。 蛇神ほどではないが、なかなかに涼やかな目鼻立ちをした男だ。 黒の髪が所々烏帽子から垂れている様は、妖艶でもある。 「余が誰か分かるか?」 「分かりません」 「そうだろうな。 人間如きに余の正体が分かる筈もない」 ふんと鼻で笑い、男は節子の身体を舐めるように見てきた。 気持ち悪さを感じながらも、身体を起こした節子はおずおずと口を開く。 「貴方は、誰なんですか」 節子の問いに、男はついと眉を持ち上げた。 そうかと思えば、鞘に収めたままの刀を思い切り振り上げてきた。 「無礼な娘め!」 男の声と節子が頬をぶたれた音がしたのは、ほぼ同時だった。 長い得物が、節子を強かに叩いたのだ。 余りに強くぶたれたので、節子はまた床に叩きつけられる事となった。 頬がじんじんと痛い。 触れば、酷く熱を持っていた。 手加減なしに打たれたらしい。 「貴様は余の問うた事だけに答えればいい。 それ以外は口を開くな、煩わしい」 汚れた物でも見るように男は言う。 節子は何が何やら分からぬまま、暴力漢を見上げた。 男が、また憎々しげに口を開く。 「人間とは、かくも弱いものよ」 節子には、男の言わんとしている事が理解出来なかった。 だが、男が癇を持っているらしい事だけは分かった。 もう激高が治まった男は、ぐるりと辺りを見渡している。 その視線の先には、壊れてしまった女達が居た。 動かなくなった化け物達の性器に必死にむしゃぶりついている。 早く先程のように犯してくれと懇願している者も居た。 もう完全に快楽の虜になってしまっているらしい。 「貴様も哀れだとは思わんか」 「それは」 「だらしなく足を開き、口も開け、男を受け入れる。 目の前の欲望にからめ取られて、後の事を考えない」 男の言う通り確かに女達は皆堕落していて、節子は返答に困ってしまった。 女達とて、最初こそきちんと理性はあったのだろうが、今ではもう完全に快楽の囚人だ。 哀れではない、と言えば嘘になる。 誰が見ても、この狂人ぶりは下賤だろう。 「さりとて、この娘達だけではないな」 男が振り返った。 また節子の身体を品定めするように眺める。 「全て人間とは、紛う事なき哀れな生き物よ」 何と返すべきか分からなくなって、節子はじっと相手の顔を見た。 その視線に、男は嘲り笑う。 「余の言いたい事が分からぬと見えるな、娘」 男は袂から扇子を出した。 蛇神のように美しい扇ではなく、灰色に染められただけの簡素なものだった。 まるでこの男の人となりを表しているような濃淡だ。 踵を返し、男は言った。 「来るがいい」 それだけ言い残して、男は奥へと歩き始めた。 節子は、呆然とその背を眺める事しか出来なかった。 言われた事が理解出来なかった訳ではないが、素直に付いて行く気にもなれなかった。 すると、傍に居た一匹の化け物が、無理矢理節子を抱き起こした。 そして、さっさと付いて行けと手振りする。 恐ろしかったが、男に付いて行くしか道は無いようだった。 節子は、仄暗い空間の中、男の後を追った。 先にあった物は、帳と呼ばれる布に仕切られた御帳台(みちょうだい)だった。 その中に腰を落ち着けた男は、節子にも中に入るよう命じた。 恐る恐る足を踏み入れれば、帳を伏せられ、男と二人だけの空間になってしまった。 ぼんやりと灯っている灯台が、やけに厭らく二人を照らす。 男はにやりと笑った。 「貴様を甚振りながら、余の話をするのも悪くない」 言うや否や、男は節子の腕を取り、己の方へと引き寄せた。 男の腕の中に抱えられてしまった節子は、すぐに抵抗した。 だが、相手の力は強い。 節子の抗う様など、毛ほども思っていないようである。 男が節子の胸に触れた。 先程の化け物とは違い、滑々した肌だった。 胸の頂を摘まれ、強く押し潰される。 節子は背を震わせた。 その反応を楽しむように、男は節子の耳元で笑う。 空いたもう片方の手は、下肢へと伸びてきた。 化け物に衣類を破かれたものの、辛うじて残っていた下肢の下着の中に、躊躇無く男の指が入る。 そして、女の敏感な場所をすぐに捕らえた。 ちょんと突き出た肉の芯を引っ掛かれる。 そして、指の腹で何度も擦られる。 「あっ」 節子は声を上げてしまった。 脳髄にまで走る電気の信号に堪えられなかったのだ。 「なかなかに厭らしい身体をしているな。 年頃にもなって、下生えが生えていないとは」 下肢の毛は蛇神が取り去ってしまった。 それを知らない男は、元より節子に毛がないと思ったのか、甚く上機嫌だ。 「これは」 蛇神に為された訳を説明しようと口を開いたが、止まる事のない男の手管に、それも遮られてしまった。 指二つで肉の芯を挟みこまれ、執拗に愛撫される。 引っ切り無しに訪れる快楽の電気に、背が何度も跳ねてしまう。 「まあよい。 この方が楽しめるだろう」 男は、抱えていた節子を一度解放し、今度は上から覆いかぶさって来た。 そして、節子の両脚を掴み、高く持ち上げる。 「さて、神の寵愛する娘の具合はいかなるものか。 さぞ可愛がられている事だろうからな」 男がゆっくりと瞬きをすれば、節子に残っていた衣服は砂のように落ちてしまった。 さらさらと肌の上を滑っていく僅かな衣類。 全て消えてしまえば、仰向けにされたまま両足を高く持ち上げられ、下肢を剥き出しにした己が残る。 男は節子の露になった性器を見詰め、目を細めた。 「やめて、下さい」 身体中が恐怖で強張った。 声が掠れてしまった。 蛇神の時は抵抗する元気があったというのに、今はそれすらもない。 ただ、来る恥辱に恐怖するしかない。 「余の話が聞きたくないのか?」 股座を拡げられたまま、節子は小さく首を横に振った。 涙が止め処なく溢れた。 指先ががたがたと震えている。 全身が氷のように凍り付いている。 それなのに、見詰められている下肢だけが熱い。 節子の足を抱えている男の手から、何か細い管のようなものが伸びてきた。 よく見れば、それは先程、化け物達に生えていた触手と同じものだった。 化け物達は下半身からのみ出していたが、この男は何処からでも出せるのだろうか。 触手の本数は、どんどん増えていく。 太さこそないが、数え切れない程に伸びたミミズ状の触手は、うねうねと蠕動しながら節子に集まった。 そして、ぴたぴたと張り付き始めた。 最初は太股から、次に股座付近、その次に最近まで毛が生えていた部分に。 それらは各々意思を持つ吸盤のようでもある。 節子の股付近にびっしりと張り付いた細い触手達は、節子の陰がよく見えるよう左右に伸びた。 すると、吸盤に引っ張られるように、節子の股座は更に大きく開かれる事となった。 ぱっくりと音を立て、節子の陰唇が口を開く。 そこに集中する男の視線が痛い。 小さな針のように刺してくる。 性器を通して、身体のずっと奥まで覗かれている気分にさえなってしまう。 蛇神の時ですら、こんなにも恐怖一色の羞恥は強制されなかったように思う。 男の視線が、ねっとりと絡みついて来る。 まるで膣口付近を舐められているようだ。 そう錯覚すれば、益々下肢に熱が集まる。 何か熱いものが、どろりと込み上げてきそうになる。 「人間は、何故にかくも己の事ばかりしか考えないのか。 その立場が誰かを犠牲にして成り立っていると、何故気が付かないのか」 言いながら、男は節子の陰にふっと息を放った。 微かに触れた吐息にすら反応した節子は、嫌々と首を振る。 男の話している内容など、頭に入らない。 「貴様は、その答えを知っているか?」 男は節子の陰に顔を近付け、更に続ける。 そのせいで、彼の吐息が何度も敏感な場所を擽っていく。 節子の腰が跳ねる。 大した快感は与えられていないのに、身体は何度も応じてしまう。 男が問い掛けた内容に答える事など、出来る筈がない。 男は、ふんと鼻を鳴らした。 「神の寵愛を受けていても、そんなものか。 残念な事よ」 その言いぶりは、興醒めだと言わんばかりだった。 節子の中では、羞恥心やら恐怖やらが綯い交ぜになって総身を襲った。 それなのに、抗う術もない。 ただ恥ずかしげもなく股を開き、陰を露にしているだけだ。 「それでは、愚かな貴様も余の魔羅を味わってみるか」 男が口をゆっくりと持ち上げた。 すると、それを合図に、今まで張り付いていただけの触手が動き始めた。 触手達は、節子の肉の芯に何本も伸びて行った。 そして、強く吸い、突き回し、時に擦り上げ、執拗に動いていく。 突然襲い掛かった強過ぎる快楽に、節子はあられもない声を上げた。 腰を暴れ馬のように何度も跳ねさせる。 だが、触手の動きは止まらない。 それどころか、更にしつこくなる。 膣口自体には触れてこないものの、その女の敏感な肉の芯への攻めは、節子にとって拷問にも近かった。 目の端にばちばちと花火が散った。 手足の先が痺れる。 背筋にむず痒いような強い信号が走る。 脳髄が悲鳴を上げる。 「最高の快楽まで落としてやろう」 男が言えば、その言葉通り、節子には経験した事のない強い衝撃の山が走った。 膣口がきゅっと締まったかと思うと、臍から中心に血の波が全身にうねり始めた。 手足の爪先が痛いほどに引き攣っている。 身体の奥底が、びくんびくんと痙攣している。 節子は、これが初めて経験するオーガズムだと知らないまま、また次なる快楽に溺れていった。 触手の動きは止まらなかったのである。 「極楽や天国といったものが上の方にあると思うな。 本当の快楽は、そこを突き破った果ての無い下の方にある」 男が言った。 その言葉は、節子の耳を上滑りしていった。 TO BE CONTINUED. 2009.02.06 [*前へ][次へ#] [戻る] |