小説 第十二話(R15) 身体が拘束されている。 真っ暗で何も見えない。 口に何かを詰められ、喋る事さえ出来ない。 遠い所では、物音がしている。 節子は抗う事も出来ず、訳も分からぬままじっとしていた。 ごとごとと身体が揺れる。 何処かへ運ばれているようだ。 茶蛙はどうしたのだろう。 やはり、傍には居てくれなかったのだろうか。 暗闇の時間は続いた。 時折ぴたりと止まったり、騒がしくなったりもした。 暫くして、やっと揺れが治まった。 そうかと思えば、勢いよく床に叩き付けられてしまった。 手を後ろで縛られ、足も括られている為、受身を取る事は出来なかった。 顔も強かに打ちつけた。 そのお陰で、口に詰められていたものはぼろりと取れた。 節子は、やっとの思いで顔を上げた。 「新入りだ」 「新入り」 「新入り」 聞き慣れない不気味な声がした。 同時に、見た事もない光景が眼前に拡がった。 節子が投げ出されたのは、何処かの洞窟内のようだった。 近くでぴちょんぴちょんと水の音がする。 床はしっとりと濡れ、且つ岩のようにごつごつしている。 明かりもほとんど無い。 しかし、それ以上に衝撃だったのは、目に映った沢山の化け物達だった。 薄茶色の皮膚、落ち窪んだ瞳、長い髪、不自然に長い四肢。 閉鎖された薄暗い空間の中、それらが亡霊のように蠢いている。 節子は、その化け物達が為している事に目を見開いた。 彼らの下肢には、磯巾着のような触手が生えている。 その数多あるうねる棒が、意思があるように各々動いている。 まるで性器のようだ。 先端からは白い飛沫を飛ばし、ぬらぬらてかっている。 化け物達は、個々で数人の若い女を抱えていた。 そして、己から伸びる性器を女子達の股座に突き刺し、四肢の動きを封じ、ただひたすらに腰を振っていた。 その度に女達はびくびくと背をしならせている。 涎を垂らしている者も居た。 あられもない声が鳴り響いている。 目の焦点も、遥か先を向いている。 信じられない光景に、節子は瞬きすら忘れた。 身体は硬直して、ぴくりとも動かない。 一匹の化け物が、女の股から勢いよく性器を抜き出した。 すると、その性器が栓になっていたのか、彼女の体内からはどろりと汁が溢れて来た。 その感覚さえも何らかの快に繋がるらしい。 女は、猫の泣き声のように鳴いていた。 異質だ。 節子は硬直ばった身体のまま、たじろいだ。 心の中では何度も悲鳴を上げたが、本物の声は一切出て来ない。 生臭い香りがした。 化け物達の精の臭いか、或いは女達のものなのかは分からない。 湿気た空間の中で、篭った臭いだけが渦巻いている。 節子のすぐ後ろに居た化け物が、ゆらりと動いた。 どうやら此処まで節子を運んできた者のようだ。 その化け物は、呆然としている節子の衣類に手を掛けてきた。 抵抗する間もなく、勢いよく引き裂かれる衣服。 化け物達の力は、人間のものとは到底思えない程強いらしい。 「嫌っ」 節子はやっと声を出す事が出来た。 だが、四肢を縛られた状態なので、身動きは取れない。 声を出したところで、何の意味もない。 その時、節子の横にごろりと転がって来るものがあった。 目を遣れば、随分と見覚えのある女だと分かった。 金色の髪、日焼けした肌、崩れた化粧。 最近居なくなったといわれていた、相澤伊織だ。 「伊織、さん」 節子は名を呼んだが、当の伊織は理性を失っていた。 節子の呼びかけには、何の反応も示さない。 ただ、突っ込まれている性器に喘いでいるだけだ。 全身に汚らしい男の精を掛けられている。 それすらも惜しいのか、開いた手でそれらの白濁した汁を掬い取り、己の口に運んでいる。 そして、蜂蜜を舐めるように嚥下する。 四つん這いになって嬌声を上げる様など、下等な畜生のようだ。 彼女は何本も性器を飲み込まされていた。 うねる触手状性器が、彼女の膣を、その後ろにある排泄用の後口を犯している。 その穴からは、やはり飲み込みきれない白い汁ばかりが溢れている。 「お前もいずれ、ああなる」 節子の衣服を破り捨てた化け物が言った。 伊織の事を指しているようだ。 振り返れば、その化け物は下賤な笑みを浮かべていた。 よく見れば、女のような顔をしている。 他の者のように、触手状性器も生えていない。 だが、声はしゃがれた男のものだった。 胸だって平べったい。 何より、枯れ木のように痩せこけ、落ち窪んだ皮膚は気味が悪い。 「蛇神のお手付きだとよ」 「神か」 「神のお手付きか」 また周りが喋り始めた。 節子に興味を示しているようだ。 各々女を鳴かせながらも、じっと節子を見てくる。 節子は泣きそうになった。 実際、とうに涙が出ていたかもしれない。 ただ、得体の知れない恐怖に総身が震えた。 助かる活路は見出せない。 己は此処で殺されてしまうのだろうか。 或いは、伊織のように廃人となるまで虐げられるのだろうか。 蛇神が言っていた、「お手付き」の意味が何となく分かった。 やはり、神が贔屓にしている女は、怪なる者にも狙われやすいのだろう。 伊織含むその他の女が神に目を付けられていたとは思えないが、化け物達は節子だけを特別好奇じみた目で見る。 その瞳の奥に、紛れも無い下劣な欲が覗いている。 素直に茶蛙を傍に置いておけばよかった。 節子の脳裏に後悔ばかりが過ぎる。 「神のお手付きならば、さぞ美味かろう」 「美味かろう」 化け物達がひゃらひゃらと笑っていた。 伊織然り、若い女達は頻りに艶めいた声を上げている。 中には、快感を通り越して悲鳴にも似た声を出している者も居た。 それでも、化け物達の攻めは収まらない。 むしろ、その反応を楽しんでいるようにも見える。 四方八方で、化け物達が精を飛ばしている。 時には女の膣内で、時には身体の外で、時には口腔の中で。 素直にその粘ついた汁を嚥下している女達は、疾うに狂っていた。 目の前にぶらさげられた性器を舐め、全身で官能を享受する事しか見えなくなっている。 自ら腰を振る者だって少なくない。 オーガズムを迎えた者は、咆哮のように吠えている。 節子の背後の化け物が、節子の胸に手を伸ばしてきた。 見た目通り、がさがさした皮膚だった。 それが胸の頂きに触れた時、節子には何とも言えない感覚が走った。 蛇神の時とは違う。 快には程遠い、吐き気がするような感触だった。 TO BE CONTINUED. 2009.01.30 [*前へ][次へ#] [戻る] |