01.空
そう言えばこんな夏の終りだった
ふと見上げた空は果てしなく遠くに見えて

あの頃伸ばした手は、何を掴もうとしていたんだう



真っ暗な空に向かってひたすら手を伸ばし続けた夜があった
遊びに来ていたケンちゃんを無理やり連れ出して、近所の公園に走った
確か夏休みの最後の日の夜
ドーム型のコンクリート製の遊具まで走り続けた俺は、それのてっぺんで勢い良く寝転んだ
その頃の日本はまだ空気が綺麗だったんだろう
視界イッパイに広がる真っ暗な空には数え切れない程の星が浮かんでいた
でも俺にはその空を掴むことが出来なくて
そこにある星1つでイイ
どうして俺には掴めないんだろう
どうして星は俺に近づいて来てはくれないんだろう
どれだけ俺が手を伸ばしても届かない
それどころかどんどん遠くへ行ってしまう様な気さえした
どれくらいの時間そうしていただろう
ケンちゃんが伸ばされた手を掴んで俺の腹へ戻した

「アレが欲しいんか?」

星を指差しながら俺に聞いた

「・・・多分」
「じゃあ俺がいつか掴ませたる。それまで我慢しい」

妙に大人びた表情のケンちゃんに少し驚いた
でもすぐにいつものケンちゃんになって

「可愛い弟が欲しがってるモンくらい俺が取って来てやるよ」

猫みたいな口で笑ってそう言った
今まで感じていた焦りや嫉妬のような妬ける感じが一気に消えた

「期待しとんで兄ちゃん?」

ケンちゃんの腕を掴んでパッと立ち上がり、もう一度空を見た
心なしかさっきよりも空が近くなった気がした




空が遠くに見えたのは秋が近づいただけのこと
だってあの頃に掴もうとしていたモノは今俺の手中にある
それもこれもケンちゃんという頼りになる兄貴のおかげ?
なんて、自惚れるから言ってやらないけど





01.空












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あきゅろす。
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