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短いの
本文1

寝起きにコーヒー駆け付け三杯。

それが朝の俺の日課だ。

だが、


('A`)「・・・・あー・・・・不味ー・・・・」

体調の悪い時、コーヒーはとてもとても不味い。
良い豆使って濃いめに淹れたヤツなんか尚更だ。

ふと、紅茶や日本茶なら体調に関わらず結構普通に飲めるんじゃないだろうか、という考えが過った。

同じカフェイン系の嗜好品ならどうして俺はこっちを選ばなかっt


ノ(゚ー゚リそ「そんな事もあろうかと、桜茶でございます」

('A`)「あ、どうも・・・・」

ホコホコと湯気を立てる浅めの器に口を付けようとして、違和感を覚えた。

ノ(゚ー゚リそ「お茶もコーヒーも刺激物なんだから、体調悪い時はどっちも同じさね」

('A`)

(゚A゚)


どちら様ですか。







('A`)は名無しと同居するようです




薄い塩味の桜茶が、荒れた胃にじんわりと染み込んでいく。
体が温まり、いくらか気分が良くなってきた。

ノ(゚、゚リそ「うっわ、冷蔵庫ロクなもん入ってねーな」

(;'A`)

ぶつぶつ文句を垂れながら冷蔵庫を漁っているのは、男としては小柄な俺より、一回り以上小さい少年だった。

ノ(゚ー゚リそ「卵使うぞー」

なんというか、全く見覚えの無い顔なんだが。
彼は勝手知った様子で台所に立ち、朝食の準備を始めている。

卵を白味と黄味に分けて白味だけを熱したフライパンの上へ。
菜箸で適当に掻いた後黄味も入れて同じ様に軽く熱を通す。
火を止め、慣れた手つきでそれを皿に移すと、丁度トースターからパンが二枚跳ね上がった。

ノ(゚ー゚リそ「適当になんか塗っといてー」

換気扇を止めて彼が振り向く。
出来たてのスクランブルエッグを乗せたヤマザキの白い皿が、テーブルの上に置かれた。



(;'A`)

ノ(゚ー゚リそ

(;'A`)

ノ(゚ー゚リそ「いや黙ってないで食えよ」

(;'A`)「いや、その」

ノ(゚ー゚リそ「身内」

(;'A`)そ

ノ(゚ー゚リそ「俺、あんたの身内な」

俺が聞く前に、彼は自分から正体を明かした。

('A`)(なんだ親戚のガキだったか、でも誰だっけ)

身内だと判ったからだろうか。
見覚えの無い筈の少年の顔が、何となく懐かしく思えてくる。

('A`)「いやー、見ない間にでかくなったなー・・・・たけし?」

ノ(゚ー゚リそ「判らねーんだろ」

('A`)「悪ぃ、誰だっけ」

ノ(゚ー゚リそ「早く食べろよ、冷めんぞ」

('A`)「なぁ、名前」

ノ(゚ー゚リそ「名前はまだ無い」

('A`)「漱石か」

某お笑いよろしくペチッと頭を張ると、彼はちょっとオーバーに肩を竦める。
年恰好に似合わない所作だった。

ノ(゚ー゚リそ「・・・・じゃあ仮に“対象a”」

(*'A`)

同志かもしれない。
俺はちょっぴりときめいた。

ノ(゚ー゚リそ「まぁ暫く一緒に住むんだし、呼び名が無いと不便だよな」

('A`)

何か今、奴はとんでもない爆弾発言をした気がする。

一緒に住む?

この六畳一間のアパートに押し掛けるつもりか?

冗談ではない。
拒否だ、断固拒否。

ノ(゚ー゚リそ「よろ」

だが、決定事項ですと言わんばかりの“対象a”の態度に流され、
気付けば俺は首を縦に振っていた。



ノ(゚、゚リそ「なぁ、仕事は? 学校だっけ?」

朝食の後片付けをしながら“対象a”は言った。

ノ(゚、゚リそ「平日だぞ? まぁどっちにしても遅刻・・・・」

('A`)

ノ(゚、゚リそ

('A`)

ノ(゚、゚;リそ

('A`)

ノ(゚ー゚;リそ「・・・・あ、 そうだな!
      具合悪いんだし休むよな常識的に考えて!」

('A`) ウツダシノウ

ノ(゚―゚;リそ「やめて! 風邪薬の一気飲みはマジで危ない!!」


“対象a”が察した通り、俺は所謂ニートだった。

上京して受験に失敗した俺は、予備校に通っていると嘘を吐き、親の仕送りだけで生活している。

このままじゃいけないって事くらい、わかっていた。

だからこそ辛かった。
こんな、会ったばかりのガキに気を使わせてしまった事が。




“対象a”が来てから、俺の暮らしぶりは割と変わった。


ノ(゚ー゚リそ「朝だおー」

('A`)「・・・・おお」

深夜までエロゲ、起きるのは昼過ぎだった生活リズムは、
六時起床九時就寝と実に健康的なものに。


ノ(゚ー゚リそ「野菜食え野菜。魚は米の倍食え」

('A`)「カップ麺が恋しい・・・・」

三食バランスの良い手料理を振る舞われてお肌はツヤツヤ。


ノ(゚ー゚リそ「“とりあえず押し入れ”は片付けた事にならない!」

(;'A`)「やめて! 押し入れだけは開けないで!」

部屋の中は綺麗に片付き・・・・

ただし押し入れだけは死守した。
そこには子供に見せられない物が入っている。





('A`)「・・・・なかなかエロゲが出来ねぇな」

家事全般万能にこなす“対象a”だったが、何故か外出だけはしなかった。
だから俺の憩いの時間は、奴が台所に立っているほんの数十分しかない。

PCを立ち上げ、“バルキスの定理関連”とカモフラージュされたアイコンをクリックする。
この中には今月の新作ゲーム、『ふたなり天使☆ドクール』を突っ込んであるのだ。


(*'A`)「エロシーンまで来るのに二日もかかっちまったが・・・・
    フヒヒ・・・・たっぷり可愛がってやんよ、ドクールたんw」





(*'A`)ー゚リそ

('A`)ー゚リそ

( 'A)ー゚リそ


(;'A`)ノシ「うおぁああああッ!」

慌ててウインドウを閉じた。


ノ(゚ー゚リそ「今日はそうめんだぞ」

見られたか、と思ったが、“対象a”がいつもと変わらず涼しい顔をして言うので、俺はホッと胸を撫で下ろした。

('A`)「あ、ああ・・・・どうりで早いワケだな」

ノ(゚ー゚リそ「ちなみにドクオ」

('A`)「何だ」

ノ(゚ー゚リそ「日本のサブカルチャーにおけるふたなり(両性具有)とは、
      卵巣を持ち、外性器が男性型である女性半陰陽を指すことが多いが、
      当然タマが無ければ立ったり出たりする道理も」

(;'A`)「やめて! 俺達のロマンを壊さないで!」

ノ(゚ー゚リそ「まぁ一言にふたなりっていっても色んなケースがあるし、
      精巣と卵巣が半々の場合なら可能性として無くはな」

( A ) ユメモキボウモアリマセン

ノ(゚ー゚リそ「・・・・もしもし?」

そして俺はふたなり物のオカズを買わなくなった。




“対象a”が来てから半月が経ち、俺もいい加減新しい生活スタイルに慣れ始めた。



ノ(゚ー゚リそ「ドクオー、携帯携帯ー」

('A`)「あー・・・・」

('A`)(実家か・・・・)

“対象a”は相変わらず頑なに本名を教えなかったが、
呼ぶ時に面倒な事を除けば、特に不便でも無かった。

尤も用がある時は“おい”か“お前”で良いのだ。


ノ(゚ー゚リそ「・・・・お前って携帯出る時と出ない時があるよな」

着信音のアニソンが、サビ前でぷつりと途切れる。
振り返ると“対象a”がコロッケを盛った皿を手に立っていた。

('A`)「・・・・いただきます」

ノ(゚ー゚リそ「残さず食えよ」


二人で囲む食卓。

最初の頃は身内と言う以外何一つ身元を証さない“対象a”を、不審に思っていた。
それが今では空気の様に馴染んでしまっている。
不思議な感じだった。

('A`)「お前が美少女だったら、それなんてエロゲ?なんだけどな」

ノ(゚ー゚リそ「発想が腐っている」

('A`)「美少女に変身しませんか」

ノ(゚ー゚リそ「しねーよアホ。つーかドクオには居ないのか?
      文句言いながらも何かと世話を焼いてくれるテンプレ通りのツンデレ幼なじみとか」

(;'A`)「ツンデレ幼なじみねぇ・・・・」

ツンデレかは知らないが、幼なじみなら一人心当たりがある。

噂をすればなんとやら、玄関のチャイムがけたたましく鳴り響いた。

ノ(゚ー゚;リそ「なんだなんだ」

('A`)「・・・・奴だ。隠れてろ“対象a”」

ノ(゚ー゚リそ「え、ちょっと、確か押し入れはマズいのでは」

今、奴と“対象a”を会わせたらややこしい事になるだろう。

俺はコロッケの皿を持ったままの“対象a”を押し入れに押し込み、玄関へと向かう。
そしてチェーンを外してドアノブに手をかけ、



ξ゚听)ξ┌┛)A`)・∴

そのまま3メートル後方へ吹っ飛んだ。


ξ;゚听)ξ「ちょっと! 居るなら言いなさいよね!」

(#)A`)「その前になんか言う事無い? あるよねぇ?」

ドアをブチ破ったこの女こそ俺の幼なじみ、その名もツン。

小学校からの腐れ縁である彼女は、俺と同じく受験の為に上京したが、
志望校に落ちるや否やさっさと就職してしまった合理派だった。

ξ゚听)ξ「かっ・・・・カレー作ったの、食べなさいよ」

ホーロー鍋を俺の鼻先に突き付けながら、ツンは言った。

ξ*゚听)ξ「別にアンタの為に作ったんじゃないのよ!
      ほんのり作りすぎただけなんだからね!」

(;'A`)「明らかに鍋でけぇじゃねーか」

ξ゚听)ξ「だってアンタ放っとくとロクな物食べないじゃない。
      近くに住んでるのにくたばられたら夢見が悪いわよ」

言葉は悪いが、俺の為に作ってきた事をほんのり自供している。

ξ゚听)ξ「ついでに掃除もしてってやるわよ。どうせ汚いんでしょ?
      この前の異臭騒ぎみたいに、私に恥かかせないでよね!」


ξ゚听)ξ !?

ξ゚听)ξ「片付いている・・・・だと・・・・?」

“対象a”が完璧に掃除した部屋を見回し、呆然と立ち尽くすツン。

なんだその反応は。
俺の部屋が片付いてちゃ悪いか。

ξ;听)ξ ホロッ

(;'A`)そ

ξ;;)ξ「ドクオ・・・・真人間になったのねドクオ・・・・」

(;'A`)「掃除くらいで大袈裟な!」

ξう听)ξ「・・・・じ、じゃあもうドクオに用は無いから帰るわ。
      カレー食べなさいよ。残したら死刑だかんね」

いきなり泣きだしたかと思ったら、俺の幼なじみはバカでかいホーロー鍋を残して去っていった。
ちなみにドアは壊れたままだ。

(;'A`)「相変わらずワケわかんねぇ」

とりあえずドアの応急措置をする為に玄関に駆け寄った時、
背後で「ばりっ」と、これまた嫌な音が聞こえた。

('A`)「・・・・」

恐る恐る振り返った俺が見たのは破れた押し入れの戸と、
中からなだれ出た大量のエロゲの箱。
そしてそのエロゲの箱に埋もれた“対象a”の姿だった。

(;'A`)「おま、何やって」

ノ(゚ー゚*リそ「ドクオ! ドクオ! パーフェクト! 大金星だぞぅ!」

(;'A`)そ

“対象a”が勢い良く起き上がった拍子に、頭に乗っていた箱の角が俺の鼻を直撃した。



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