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悪戯(藤)
目覚め(後編)
付き合い始めて間もないころから、茶子はやたら俺に触ってきた。
今日もイケメンだーと鼻をつまんだり、私も保健室行こうかなーと背中に体当たりしてきたりと周囲の目なんて気にもならないらしい。
ちょっとは場所を考えろ!とこっちが焦れば焦るほど目を輝かせ喜ぶのだ。
これは俺の反応を楽しんでるんだな、とようやく気付いたときにはもう、周囲も俺も茶子の言動にすっかり耐性が付いていた。

「顔を真っ赤にして焦る藤くん見るのを日課にしてたのに…」

なんつーことを日課にしてんだお前はと思いつつ、茶子のアホな言葉を「あっそう」と聞き流す。
保健室へ向かう俺の背中に張り付いて、腕を俺の腰にしっかりと回し足の力を抜いている茶子がズルズルと引きずられていく。子供か。
その様を隣を歩くアシタバが困惑した顔で見つめている。
まあ気持ちはわかる。わかるけど俺達こう見えて楽しんでんだ。
背中に伝わる体温に笑みを漏らす俺を見て、アシタバが安心したように笑った。
退屈でたまらなかった学校生活が、茶子の突拍子の無い無邪気な悪戯によって穏やかとは無縁の日々に変化した。
何をされてもこいつならしょうがない、と脱力しつつ湧き上がってくるのは甘さを含んだ弾む嬉しさで、恋っつーもんはスゲーなとつくづく思った。


※※※※※


少しだけ過去に戻っていた俺の意識が、茶子の乗ったブランコの軋む音で現実に引き戻された。

「おい」
「………」
「んな落ち込むなって」
「無理」
「ちらっとしか見えてねーよ」

自業自得でこうして顔を伏せてる茶子に何の慰めにもならない言葉をかけると、伏せられていた顔が少し動いた。

「でも見えたんでしょ」
「う、まあ…。でもだいたいスパッツはいてないこと忘れてて豪快にブランコこいだお前がバカなんだろ」
「真っ赤になった藤くんの顔を久々に見てやろうと思っただけなのに!」

茶子との下校中、通りかかった公園にブランコを見つけた茶子はキラキラと目を輝かせながら俺を誘った。
元気だなと呆れる俺を尻目に意気揚々と立ってブランコを漕ぎ出した瞬間、白い太ももとそれに続き淡い色をした下着が露わになった。
本人は全く気付いていない。
「おいっっっ!!」と瞬時に叫んだ俺の剣幕に、やっと自分が今日スパッツをはいていなかったことに気付いた茶子。

「結果的に俺だけじゃなく自分も真っ赤になっちまった、と」
「くーやーしーいー!」

二重の意味で落ち込んだという訳だ。
これに懲りてしばらく大人しくしてろってんだ、と思ったが大人しい茶子というのも考えてみたら物足りない気がする。

「暗くなってきたな。そろそろ帰るぞ」
「…はーい」

なんともいえない顔をして茶子がブランコから立ち上がる。

「なさけねー顔」
「だって」

思わずもれた俺の笑みを見て、茶子もつられて笑った。
カバンを持ってない方の手を茶子の方へずいと差し出すと、茶子は珍しいものでも見たかのように目を丸くした後、満面の笑みを浮かべ俺の手を握った。
先程までの表情とまるで違う。
手のひらひとつで上機嫌になるなバカ、照れくさいだろ。
にこにこ見上げてくる茶子と目が合わせられず、明かりのつき始めた街灯を見上げるふりをする俺だった。



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悪戯に目覚めたきっかけのお話でした。
感想とかいただけたら大喜びします。


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あきゅろす。
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