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どれを読んでも笹塚さん
花粉の中を
インターホンを一度押し、指を離した瞬間に盛大なくしゃみが出た。

ピンポーン。

…くしゃみの勢いでまたインターホンを押してしまった。
こ、これじゃあ早く出ろと急かしてるみたいじゃないか!
一人あわあわと焦っていると、ガチャリという音と共に目の前のドアが開いた。
中から顔を出したのは、無精ヒゲに酷いクマの笹塚さん。相変わらず疲れきった表情だなー。
会えた嬉しさにさっきの自分のインターホン二度押しという失礼な失敗も忘れ一気にテンションが上がる。

「こんにち…はっくしょん!」

…挨拶の途中でまた盛大なくしゃみが出た。
よりによって笹塚さんの目の前で。
笹塚さんは情けない顔をしてぐずぐずと鼻にハンカチを押し当てる私を見て「相変わらず元気そうだな、名前」と言ってふっと目を細めた。

電話をしてもメールをしてもろくに反応の無い、この笹塚さんと付き合いだして数ヶ月になる。
私は以前、弥子ちゃんの探偵事務所に一度調査を頼んで以来、事件が解決してからもよく遊びにいくようになって、それで笹塚さんとも顔見知りになった。
ぼーとしてるのに頼りがいがあって、地味だけど切れ味のある突っ込みがお茶目で、とても優しい笹塚さんを私はすぐに好きになった。
弥子ちゃんには真顔で「笹塚さんって恋愛できるの?」と言われたんだけど、私は頑張った。

積極的に話しかけたのも、付き合って下さいといったのも、全て私からである。
一生懸命ひっついてないとすぐに忘れられてしまうかもしれないと、なんかヤケになってないですか?と弥子ちゃんに呆れられながらも頑張っていますよコンチクショー。

そう。何をするにも私から。
今日が笹塚さんの休みだなんて知らなかったし。
連絡なんてもらってないからね!とほほ。
しかも弥子ちゃんからの電話で教えてもらって、知った瞬間私は花粉症なのにマスクも忘れて家を飛び出していた。行くという連絡もせずに。
そのおかげでくしゃみと鼻水で顔がぐちゃぐちゃである。
来ないほうがよかったか…いやいや、でも会うことが大事なんだ!多分。

「今日、弥子ちゃんに、ヘクチ、休みだって聞いて」
「そーなんだ。情報早いな。てか何ヘクチって」
「きて迷惑だったですか、っくしょん!」
「…花粉症?」
「はくしょん!」

ああもう恥ずかしすぎる。
笹塚さんは肩を震わせて笑ってるし…。
ハンカチから顔が上げられない。

「あのさ、もう少ししたら電話しようと思ってたんだよな」

その矢先に名前がきたんで驚いた、と笹塚さんは私を玄関に通しながら楽しそうに笑う。
お邪魔しますといいながらまたくしゃみする私に、笹塚さんはまたぷっと吹き出した。

「花粉症酷いこと知ってたら俺がそっちに行ったのに」

不意にあたたかな笹塚さんの胸の中に抱きしめられた。
服に鼻水つきますよ、と言ったけど離してくれなかったので、私はその穏やかな胸の音を聞きながらそっと目を閉じた。はくしょん。





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