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どれを読んでも笹塚さん
買い物は二時間後
内容が頭に入ってるんだか入ってないんだかわからないくらい無表情で新聞に目を落とす笹塚さんを、少し離れた場所からじいっと見つめていた。
何も無い空っぽな瞳の奥で、笹塚さんは何を考えているんだろう。

「………さっきから何?」
「いや、ちゃんと読んでるのかなって。さっきから微動だにしないから」
「読んでる」
「そう」

彼は決して機嫌が悪いという訳ではなく、普段からだいたいこうなのだ。
付き合い始めたばかりの頃はこうした態度がさみしくて構ってもらうことばかり考えていた。
だけど今はもうこの状態に慣れてしまって、一緒の空間に居られるだけマシかとちょっと切ない前向き思考でなんとか耐えている。
先日まで大きな事件を抱えて徹夜もザラだったらしく、目の下のクマがいつもより濃い。
久々に会えたけれど、今日は一人でゆっくりさせてあげたほうがいいかもしれないな。

「笹塚さん、私今日はこれで…」
「あのさ」
「はい?」
「夕飯、カレー食いてーな。名前の作った、なんか色々はいってるやつ」
「色々って…この前作った大根とウインナー入れたやつのことかな?」
笹塚さんがガサリと音を立てて新聞を畳む。
そして私を見つめ、ふっと目元を細めた。

「あー、たぶんそれだ」
「わかった。でも冷蔵庫、何も入ってないから買い物行かなきゃ」

このやりとりに気分が浮上して一気にテンションが上がる。
じゃあ行くか、と笹塚さんが立ち上がった。私も慌ててバッグを持って立ち上がる。

「疲れてるなら休んでていいんだよ?買い物なら一人で行ってくるから」
「…や、一緒に居たいし」

横に並んだ笹塚さんが、私の頭をぐしゃぐしゃと撫ぜて、ぐいと肩を抱いてくる。
ふわりと煙草の香りがして、笹塚さんがすっと顔を近づけその薄い唇を私の唇に押し当ててきた。
唐突に奪われた唇に、腰に巻きついてくる腕に、どきどきどきと心臓が高鳴る。

「なあ…買い物、後にしねーか?」

目の前の瞳の奥に揺れるのは、鮮やかに色付いた人間らしい欲求。
返事をする代わりに伸び上がって笹塚さんの唇にキスすれば、後はベッドへ倒れこむだけ。

結局、買い物に行ったのは二時間後のことだった。




-----------カレーに大根は合う!

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あきゅろす。
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