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どれを読んでも笹塚さん
たじたじ

「笹塚さーん!」

耳慣れた声だが懐かしい呼び方に何事だと思いながら笹塚が振り返ると、
それはもうにこにこ顔の名前が大量の荷物を持って足取りも軽く歩いてきた。

「名前……、久しぶり。わりーな急に呼び出して」
「ええ本当にびっくりするくらい久しぶりですね! 笹塚さんはお元気でしたか?」
「…………っと、最近電話できなくて悪かった。怒ってるよな」
「え? どうして謝るんですか笹塚さん。そういえば先月くらいから連絡してもろくに返事もしてくれない人がいてですね、
 そんな人が何の前触れも無く急にクリスマスの日に呼び出してくるくらいのことやられない限り怒ったりしませんよ」
「マジで悪かった」

名前の静かな笑顔とその迫力に、笹塚は思わず煙草の火を消して表情を引き締める。

「いいえ、用は何ですか笹塚さん。私これから用事があるんで手短にお願いします」
「とりあえず笹塚さんはやめてくれ」
「笹塚さん、今日はクリスマスですね。ご予定は?」
「恋人に謝り倒して許しを請うことかな」
「へえ、許してもらえるといいですね」
「名前に言ってんだけど」
「お仕事は大丈夫なんですか?」
「今日だけは名前と過ごそうと徹夜で仕事終えてきた」
「そうなんですかー」
「信じてねーだろ」

いい、と突っぱねられる覚悟で名前の買い物袋に手を伸ばすと、意外にも素直に笹塚に買い物袋を渡してきた。
少しは許してもらえたのかとほっと胸を撫で下ろす。

「軽いな。洋服?」
「あまりの可愛さに衝動買いしちゃった。でもこれ着ても見せる相手なんていませんけどね」
「後で着て見せて」
「いや」
「……今度これ着て俺とデートしてください」
「考えておきます」
「そういや用事って何」
「一人でぶらぶらお買い物してさみしくケーキ買って帰ること」

う、と言葉に詰まった。
このまま対応を間違えたら本当に帰られそうな気がして、笹塚はこほんと咳払いをする。

「名前にクリスマスプレゼントがあるんだけど……」
「本当!?」

名前の表情が、キラキラと光ったように見えた。
それでわかった。きっと、許すきっかけを探していたのだろう。
最初は本当に怒っていたに違いない。
しかしそれをどこまで続ければいいのか、引き際がつかめずに本心とは別に拗ね続けてしまっていたのだと思う。
そんな不器用さが本当に名前らしい。
だからこうしてきっかけを与えられ、飛びついた。
その笑顔の中にはもう怒りなど見えなくて、可愛いなと思う。

「これから俺とデートしてくれる?」
「しょうがないなあ。まあせっかくのクリスマスだしね、今日は特別に許してあげるよ、衛士」
「助かった。このまま名前で呼んでくんなかったらマジどーしようかと思った」

名前はその言葉にくすりと笑うと、笹塚の腕の間に自分の腕を通す。

「……………あのね、会えて嬉しい」

この一言で、疲れた身体に鞭打って名前に会いにきたかいがあったと笹塚は思った。




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