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どれを読んでも笹塚さん
刑事と鑑識

辛そうに咳き込む背中にそっと手を当てると、笹塚さんは驚いたような顔をした。

「病院へ行った方がいいんじゃない?」
「いや……数日で治るだろ」

そう言った途端、笹塚さんはマスクの下でまた激しく咳き込む。

「薬局で咳止め買ってこようか?」
「心配かけて悪い。けど、大丈夫。そっちも仕事中だろ」
「大丈夫じゃないでしょう。ここの証拠採取は済んでるけど、違う現場であなたの咳の飛沫が証拠を汚染でもしたらどうするの。せっかくの証拠が使い物にならなくなっちゃう」
「マスクしてればそうなりゃしねーよ」
「倒れたりしないでね」

笹塚さんがさっき私が背中に手を当てた時よりも驚いた顔になる。

「なんでそんな顔するの」
「あー、……なんつーか、なんか名前が今日はやけにしおらしく思えてさ」
「気持ち悪いなら言って」
「いや、嬉しいけど」

咳き込みながら、笹塚さんは目を細める。

「いつもは現場で会っても口なんかきいてくんないもんな」
「そりゃあそうでしょう。あなたはあなたの、私は私の仕事があるから」
「今日は風邪ひいたおかげで名前と話せたな」
「証拠採取は済んでるし、現場での仕事はもう無いもの。立ち話くらいいいじゃない」
「いつもならさっさと分析しに戻るのに今日に限ってどーして立ち話してんのか聞いてもいい?」
「……あなたが心配だったの」

濃い青のキャップを深々と被って表情を隠そうとしたけれど、つばを持つ手が笹塚さんの手に阻まれてしまった。

「風邪ひかせたのが自分だから?」

からかいを含んだ笹塚さんの言葉に頬が熱くなる。
数日前、笹塚さんと一緒に包まっていたはずの布団を翌朝気付けば私一人だけで独占していたのだ。

「うう、あの時はごめん。でも恋人が風邪ひいてたら誰だって心配するでしょ」
「やばい……そんな可愛いこと言われたら熱が上がっちまう」
「え!?」

慌てて額に手を当てると、よく立って喋って居られるなとびっくりするくらい熱かった。
っていうか、熱が上がったのは私の発言のせいじゃない!




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