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どれを読んでも笹塚さん
禁煙夫婦(弥子ちゃんと子供も居るよ!)


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笹塚さんと名前さんの子供が出てきます。
子供の名前をこちらの三番目のところへ入力してお読み下さい。
男の子でも女の子でもどちらでも大丈夫です。
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桂木弥子魔界探偵事務所に備え付けられた小さな薄暗い給湯室で、笹塚衛士は一人ひっそりと事務所から漏れ聞こえる賑やかな声を聞きながら換気扇の下で煙草を吸っていた。
今日は首がすわりたての我が子を連れて、名前と共に弥子の事務所へと遊びにきたのだ。

知り合った頃は女子高生探偵という肩書きだった弥子は、今では世界を飛び回る探偵になっていた。
その腕に抱えきれないほどの事件を依頼され、目が回るほど忙しそうにしているのに、それでも時間を作ってこの事務所に帰ってきて、いつ戻るかわからない助手を待っている。
妻の名前と弥子はまるで姉妹のように仲がよく、こうして弥子が海外から帰ってくると助手の居ない事務所で一人(と一房?)でぽつんと待つ弥子を気にしてたくさんのお菓子を持って遊びにくるのだ。

煙草が半分ほど灰になったところで、片隅に置いてあったやけに仰々しいガラスの灰皿にそれを押し付けると、何となく自分の身体を手で払う。
そんな自分の行動に少しだけ意外といった表情を浮かべ、事務所へ戻った。

「あ!笹塚さん見て下さいよー、子供ちゃん泣かなかったですよ!」

名前の隣で頬を上気させ、弥子が子供を抱っこして笹塚に向かって笑いかけてくる。

「赤ちゃんってこんなに柔らかいんですね。ほっぺも腕もむちむちで……」

ここまで言って、弥子の目つきがとろんと溶けた。
そして瞳の色がどこか恍惚としたものに変わる。

「ほんと……つきたてのお餅みたい……どこもかしこもふっくらしてて、もう食べちゃいたいくらいかわいい…………」

弥子の言葉を最後まで聞かず、笹塚は目にもとまらぬ速さで我が子を危険人物の腕の中から奪っていった。

「ちょ、笹塚さん早ッ!!!」
「…なんか、このままだと食われちまいそうな気がして」
「失礼過ぎる!私を何だと思ってるんですか!」

ぷんとした顔で弥子が言えば、笹塚が「食いしん坊だろ」と言い、間髪入れず名前も「食いしん坊だよね」と頷く。
そして夫婦揃って「底なしの」と付け加えた。
そんな夫婦に酷い!と言いつつ否定できない弥子だったが、
「だからといって赤ちゃんは食べたりしませんから!」と笹塚の腕の中から子供を取り返す。

首がすわったとはいえ、まだ時々ふにゃりとする頼りない動きの赤子は、自分をしっかりと抱きかかえてくる弥子の髪の毛に向かって小さな紅葉のような手を伸ばした。
引っ張られると痛いんだよな…、なんて目を細めつつ思っている笹塚に、名前が口を開く。

「あれ、そういえば衛士、飲み物取ってくるって言ってたのに。私達の飲み物は?」

綺麗な長い髪を揺らし小首を傾げる妻に、笹塚は給湯室に行ったのは煙草を吸う為でなく飲み物を取る為に行ったことを思い出す。
ぽりぽりと指で頬を掻き、笹塚も名前の仕草を真似するように、同じ角度に首を傾げた。

「……あー悪い、忘れてた。取ってくる」
「待って」

名前に腕を掴まれ笹塚は足を止めた。
その腕に全く力はこもっていないというのに動けなくなる。
何かにおうぞ、と、くんくんと笹塚のスーツの胸元へ鼻を寄せ「飲み物忘れて煙草吸ってたなー」と笑う名前に、笹塚は、ばれたかと苦笑いを浮かべた。

「別に、子供抱っこしてる時に吸ってるんじゃないからいいんだけどね」
「子供の前では吸わねーって決めてっから。つーか、禁煙できりゃいーんだけど」
「でも衛士、子供が生まれてから煙草の本数減らして頑張ってるじゃない、それだけでも凄いよ」
「ついさっき我慢できずに吸っちまったんだけどな」

いきなり無理しなくてもいいよ、と名前は明るく笑った。
名前にはいつも甘やかされているなとつくづく思う。
しかし、こんな妻だからこそ、努力のしがいがあるというものだ。

「……なあ、名前。禁煙できたらどんなご褒美くれるんだっけ?」
「なに突然。というより、ご褒美だとかそんな約束した覚えないんですけど」
「俺の可愛い奥さんだったら、禁煙できたご褒美に何かイイコトしてくれるんじゃねーかなって思ったんだけど」

耳に直に響かせるように、名前の耳元に唇を寄せた笹塚が、低く艶のある声で囁きかける。
“可愛い奥さん”に反応してか“イイコト”に昨晩の夫婦の濃い営みを思い出してか、名前の頬がぽっと赤く染まった。

「もう、変なこと言わないでよ」

耳を押さえて何ともいえない可愛らしい表情で笹塚を見上げてくる妻に、笹塚が「聞こえてねーって」と、その艶やかな髪に触れながら、からかうように笑う。
その言葉に名前はちらりと弥子と子供へ視線を向ける。
テレビは、アヤエイジアを特集しているのか、美しい歌声と共に昔の懐かしい映像が次々と流れていた。
弥子は「この人ねえ、私の友達なんだよ」と子供に向かって話し掛けているし、
子供は、ほえ?と抱っこしてくれている母親以外の腕の感触に不思議そうな顔をしている。

本当に、二人に笹塚と名前の会話は聞こえていないようだった。
名前はうーんと少し考えると、伸び上がって笹塚の耳元に内緒話をするように、こそりと囁いた。

「じゃあねえ、禁煙できたら衛士のしたいことなんでもしてあげるよ」

少し恥ずかしげに、どこか嬉しげに微笑む名前のその美しさに、笹塚は思わず息を飲んだ。

「……俺、真面目に禁煙するわ」
「ただし、一年間煙草吸わないでいられたらだよ」

名前の言葉を聞き、笹塚はがっくり肩を落とす。

「まあ、ゆっくり頑張ってね!」

飲み物よろしく、と名前がにししと悪戯っぽく笑いながら子供と弥子の方へ歩いていってしまった。
その後姿を見つめつつ、無意識のうちに内ポケットに入っている煙草の箱を取り出そうとしている自分に気付き、笹塚は溜息をつきその手を離す。

(したいことをなんでもか……)

名前の言葉を思い出し口の端を少し緩め、笹塚はのそりと皆の飲み物を取りに給湯室へ足を向けた。





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