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どれを読んでも笹塚さん
牛乳と目玉焼き
朝食に目玉焼きを作ろうと冷蔵庫を開けたところで笹塚さんがあくびをしながらキッチンに入ってきた。

「おはよう笹塚さん」
「おはよう」

まだ眠そうに目をしょぼしょぼさせたまま、笹塚さんは微かに表情を緩める。

「朝ごはん、目玉焼きでいい?」
「あー…この前、そう言って出てきたのはスクランブルエッグだったような…」
「今日は大丈夫!」
「じゃー期待してる」
「あんまりしないで!」
「…はいはい」

笹塚さんは、たまごを取る私の背中に覆いかぶさるようにして牛乳に手を伸ばす。
昨夜、シチューを作って少し残ったものだ。
野菜の形が個性的だけど美味いって言ってくれたのが嬉しかった。
まぁルー使ったから美味しいの当たり前なんだけど。

「全部飲んでいい?」
「笹塚さんて牛乳飲むんだ」
「毎日じゃねーけどな。…なに、その意外そうな顔」
「いや、爽やかな朝には水道水か焼酎飲んでるイメージがあったもんで」
「…なにそのイメージ」
「気にしない気にしない」
「名前の頭ん中の俺ってどんなだよ…」

拗ねたように言い、笹塚さんは牛乳パックに直接口をつけ、一気に飲み干す。
ごくごくと動く喉仏が男らしくてカッコイイ。
色っぽいなぁ…。
たまごを握ったままじいっと見つめていると、笹塚さんはぐいと口を拭いながら、何?と言うように柔らかな眼差しで私を見つめ返す。

「私、笹塚さんのこと全然知らないんだなー」
「付き合い出して間もないからな…ま、これから知ってって」
「私のこともね」
「とりあえず、料理を作る姿が危機迫った感じで可愛いってことは先週知った」
「だって笹塚さんに見られて緊張したんだもん!」
「恋人になったのにまだ下の名前で呼べない照れ屋なとことか」
「う、」

笹塚さんは優しい眼差しで私を見つめている。

「衛士って呼んでみ、名前」

笹塚さんの長い指が私の唇をなぞり、髪を滑り、後頭部に添えられたかと思うと、そっと引き寄せられ唇が重なった。
私は、笹塚さんはもっとずっとクールに恋人に接する人だと思ってた。
だけど彼は彼のペースを崩すことなく自然に私に甘くする。
付き合うようになって発見したこと。

「衛士…」

キスの余韻か、自分のじゃないみたいに甘く響く声。

「やっと呼んだ」
「緊張する…」
「もっと呼んで慣れたらいいんじゃねーの?」
「え・い・し!え・い・し!」
「…応援?」

静かに首を傾げ、目を優しく細める。
私の馬鹿な行動に対してよくやる仕種だ。

おもしろい人だよな、アンタ。
付き合う前、よくそう言われていた。
自分では大まじめなんですけど、なんて返せば、見たこともなかったような表情で笑ってくれて心臓がドキドキした。
意外と表情豊かな人なんだと最近知った。

「お腹すいてきたからそろそろ目玉焼き作るね」
「ん」

と言いながら動かない。

「新聞でも読んでれば?」
「俺居るの気にしないでいーよ」

フライパンをあっためる。
たまごを割り入れる。
透明だった白身が大きな音を立てて白くなってくる。
お水を少し入れて蓋をしてしばし蒸し焼きに。

「…手際いーな、先週と違う」
「一週間練習した」
「そりゃすごい」

笹塚さんがふっと笑う気配。
俺の為に?なんて後頭部にキスされながら聞かれ、動揺して菜箸が指から滑り落ちる。
横に立った笹塚さんを見上げると、額にすっと押し当てられる唇。
口がいいな、という前に笹塚さんの唇が重なってきた。

キスに夢中になっているうちに、目玉焼きはコゲてしまった。





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