silent child
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『ケンタ君へ
突然のお手紙でごめんなさい。そして、読んでくれていたとしたら、有難うございます。
発表会ライブの時に、初めてケンタ君のことを知りました。
私も同じ系列のピアノ教室に通っているので、偶然観に行っていたんです。でも、皆のノリについていけず、立ち尽くす私は、凄く浮いてしまっている気がして、行かなければよかったと、直ぐに後悔の気持ちで一杯になりました。
そんな時、ケンタ君達の演奏が始まったんです。体をあまり揺らさないままギターを弾くケンタ君を見て、何となく、私に似たものを感じました。単に緊張しているからだとていう可能性もあるのに、私と同じ種類の人間なんじゃないかって思ったんです。
ピックを落として固まってしまったのを見て、やっぱりケンタ君は、私と同じ側の人間なんだって確信しました。
「もうダメだ」という気持ちと、「頑張って欲しい」という気持ちが同時に生まれました。
ケンタ君がその後、どうにか立て直して、最後まで一生懸命頑張ったのを見て、私は感動したんです。
その感動がずっと尾を引いたまま、次の日になりました。ケンタ君が4中生だと知り、4中の友達にケンタ君のことを聞いたんです。そうしたら、その友達が、ケンタ君は、人前だと喋ることも出来ないし、上を向くことさえも出来ないのだということを教えてくれました。
勝手にこんなことを聞いてしまってごめんなさい。
でも、それを聞いて、私はもっと感動したんです。私は、ケンタ君のことを、人前に出るのが苦手程度にしか思っていなかったからです。
私が思っていた以上に、何倍も、何十倍も、ケンタ君は頑張っていたという事実を知って、私は凄く感動しました。
私を見て分かったと思いますが、私は人前で顔を出すことが出来ません。
ケンタ君にとって、顔を出すということは当たり前のことかもしれません。それでも、私からすれば、顔の出すことの出来るケンタ君は、凄い人の一人です。
顔を出せないと言っても、このままでいたいと思っているわけではありません。
でも、変わることが凄く怖いんです。
変わることの怖さが分かる私にとって、変わろうと頑張っているケンタ君は、やっぱり凄い人です。
勇気を持って変わろうとしているケンタ君を見ていると、怖いけれど、私も頑張ろう、と思えます。
だからこそ、ケンタ君を応援したかったんです。
ケンタ君が頑張れば頑張るほど、私も頑張れるような気がします。私にとっての目標は、私よりも何倍も頑張っているケンタ君です。
これからも応援しています。頑張って下さい。
カレンより』
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