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silent child


(今、呼ばれた?)
(ううん、そんなわけないか)
 ケンタ君って聞こえたような気がした。でも、聞き間違えだろうなと思ったから、僕は、バンに寄りかかったまま下を向いていた。

「あのぅ、ケンタ君……っ。」
(やっぱり聞こえる)
 僕を呼ぶ、小さな可愛らしい声。

 まさかな、と思いつつも顔を上げた。
 そこに居たのは――、全身真っ黒の女の子。
 ジャケットもインナーもスカートも足元も、全てが真っ黒。髪も真っ黒で、顔まで真っ黒。
 っていうのも、長すぎる前髪が垂れ下げられていて、顔のほとんどが覆われてしまっているから。肩につく髪よりも短いから、それが前髪だと辛うじて判別出来る。
 出ている顎や、指先の青白さだけが、暗闇の中でやけに浮き上がって見えた。

 第一印象は、真っ黒の女の子。

「あのぅー、そのぉ……、こ、これ……。」
(えっ?)
 真っ黒の女の子は、もじもじしながら、僕の前に封筒を差し出した。暗くて見えないけど、多分、白かピンクの可愛らしい封筒。
 僕は、それをどうしていいのか分からなくて、女の子をじっと見つめていた。

 いつもの僕なら、女の子の前となると、つい下を向いちゃうんだけど……、不思議とこの子の前だと平気だった。顔が前髪で隠れていて、視線を感じないからなのかもしれない。

「あの……っ、これ……っ。」
(誰に……?)
 女の子は、ずいと前に出しながらそう言うんだけど、僕に渡されても困る。
 だって、多分これは、他の誰かへと宛てた手紙で……、恥ずかしくて直接渡せないから、僕に代わりに渡して欲しいんだって意味だと思うから。
 そういうことも時々ある。「これ、○○に渡して下さい。」と押し付けられるんだ。

(誰に渡せばいいの?)
 僕は喋ることは出来ないし、この子は誰宛てなのかはっきり言わないし……、どうしていいのか分からない。

(どうしよう……)
 相手が誰なのか分からないまま受け取っちゃったとして……、手紙が意中の相手に届かないなんてことになったら悪いな、とか考えてしまって、手が伸びない。

 お互いに見つめ合ったまま、二人で固まってしまった。見つめ合うと言っても、実際に目と目を合わせているわけではないけれど。

(困った……)
 女の子も困っているみたい。
 ここは、男の僕が、どうにかするべきなのかもしれない。

 僕は頭をゆっくり動かした。
 マコトさん達を一人ずつ見て、それから、大和、マサキ、ダイキを見た。そうしてまた、女の子を見る。
(相手は誰?)
 声を出すことの出来ない僕の、精一杯の尋ね方。伝わったかどうかが、凄く心配。

「あのっ、これ……っ、これは……っ。」
 女の子は僕の胸に手紙を突きつけ、こう言った。
「ケンタ君へ……っ。」


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あきゅろす。
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