silent child
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第5話 『“がんばれ”を頑張る僕』
いつも“がんばれ”をもらっているばかりの僕。
今度は、僕が与える番になりたいんだ。
「がんばれ」のたった一言。
あの子に――頑張って伝えたい。
「キャーーッ!! 出てきたわよー!!」
「こっち向いてーっ!!」
ライブハウスを出れば、女の子達の黄色い声。いわゆる、出待ちというやつらしい。
(相変わらず、凄い人気……)
外に出るのも一苦労な程、大勢の女の子達が出口前に並んでいる。腕に、ファンレターやらプレゼントやらを抱え、我先にと突撃していく姿は、女の子と言えど逞しいと思う。
今は11月下旬。夜はこんなに寒いのに、それでも外で待っているなんて、本当に好きなんだろうな。
もちろん、こんなに沢山のファンに囲まれているのは、駆け出しの僕達、noisy boysなわけもなく……、実際に群がられているのは、マサキの兄ちゃんこと、マコトさんとこのバンド。元々バンドに興味のなかった僕は知らなかったけど、地元では中々人気のあるバンドらしい。
――いつか僕達も、マコトさん達みたくなれたらいいな。
きっと、そんな夢が叶うとしたら……、ずっと先のことだけど。
マコトさん達が、ファンの子達に丁寧に対応している間に、僕達はせっせと機材をバンへと運ぶ。
荷物運び等の手伝いを条件に、僕達、noisy boysは、マコトさん達の前座としてちょくちょく出させてもらっている。
中学生っていう貧乏な僕達には、とても有難い条件。しかも、僕達には高価すぎる機材を貸してくれたり、作曲の仕方を教えてくれたりと、面倒見てもらってばかりで、本当に頭が上がらない。
9月から少しずつ出させてもらっていたから、今日でライブは5回目。と言っても、所詮は前座だけど……。
それでも、ライブはやっぱり気持ちがいい。
今ではコピー曲が5曲演奏出来るようになったし、初のオリジナル曲も、もう直ぐ完成しそうなんだ。
――コピーもいいけど、やっぱりオリジナルをやってみたい。
まだまだな僕達。
それでも、少しずつファンがついてきた。
「マサキくぅーん! やだぁ、可愛いーっ!!」
マサキを囲むのは、年上のお姉様方。何でも……、マサキのやんちゃっぷりが可愛くて堪らないらしい。
「ヤマトくーんっ! カッコイイー!!」
ヤマトを囲むのは、同年齢からちょっと上の女の子達。何でも……、大和の爽やかな笑顔にやられてしまうらしい。
「ダイキーーッ! その冷たさがイイッ!!」
ダイキを囲むのは、ちょっと気の強そうな個性的な女の子達。何でも……、ダイキのワイルドなクールさに惹かれるらしい。
そして、僕。平凡で、しかも愛想のない僕にファンがいるわけもなく……、ちょっと寂しかったりする。
気付けば――、暇な僕一人で何回も往復して機材を運ぶ破目になっている今日この頃。
(かなり虚しい……)
最後の機材をバンに乗せ、寄りかかって皆を待つ。
「あの……、ケンタ君っ。」
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