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silent child
10
「憲太君がそう……、言ったんですか?」
(ごめんなさいっ! 僕は嘘をついた!)
「そうよっ! それが何なんですっ?!」
(どうしようっ、きっと……、もう駄目だっ)

 矢口先生は、多分言っちゃうんだ。
 だって――、矢口先生はいつもズバズバ物事を言うから。
 だって――、矢口先生は僕にいつだって厳しいから。

 矢口先生はきっと言っちゃう。「憲太君は発表をしたことがありません。」とか、「憲太君は喋ることすら出来ません。」とかって。
 そんなことを言われたら……、僕はもうお終い。

 絶望的な状況に、僕の体は、震えが止まらなかった。心臓が締め付けられるかのように痛くて、胸が苦しくなる。
 恐いけど……、聞きたくないけど……、必死に聞き耳をたてて、矢口先生の言葉を待った。


「確かに……、頑張ってはいます。」
(うそ……っ、なんで……?)
「指名をすれば答えますし、黒板に書けと言えば書いてくれます。」
(なんで……っ?)
「ですから、全くしていないというわけではありません。」
(なんで……、僕を庇うの……っ?)

――矢口先生は、嫌な先生のはずでしょ?
 なんでそんなこと言うの……?
 いつものように、僕のことを責めればいいじゃん。いつものように、僕に甘えるなって怒ればいいじゃん。いつものように、厳しくすればいいじゃん。
 大嫌いな先生だったはずなのに……。


「じゃぁ、いいじゃない! もっと評価を上げてくれたって! そもそも発表なんか、どうでもいいじゃない! テストが出来たら5を与えるべきだわ!」
「やらされてするのでは意味がないんですよ。自分からしようと思うことが大切なんです。憲太君にそういった姿勢が見えれば、どの教師も間違いなく5をつけたでしょう。社会に出て、本当に必要なのは、詰め込んだ知識ですか? それよりも、自分で何かをしようとしたり、コミュニケーションをとったり、発表して意思表示したりする力の方が、社会を生きていくために必要だとは思いませんか?」

(その通りだと思う……)
 きっと、このままの僕じゃ、社会に出て行くことは出来ない。甘えの許される学生だから通ることだって、ちゃんと知っていた。

「じゃぁ何よっ! あの子がっ、憲太が、消極的な子だから……っ、内向的な子だから……っ、評価を下げるって言うのっ?!」
(僕は、消極的な子なんかじゃ、ないっ!)
(僕は、内向的な子なんかじゃ、ないっ!)

 喋れない子だって、言われなかったのは、凄く嬉しくかったし安心した。ずっとそれが不安で恐かったから。
 でも結局、喋れない子だって言わなかったとしたら、消極的な子、内向的な子になっちゃうんだ。僕は、このサイクルからずっと抜け出せない。


「お母さんには、憲太君がそう見えるんですか?」


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