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silent child


 体をくっつけていたから、多分二人にまで、振動が伝わってしまったと思う。
 折角皆が傍に居てくれているのに……、それでも僕は、恐くて堪らなかった。

 左右にいる二人は、そんな僕を安心させるかのように、体を傾けて体重をかけてきた。
 下を向いて居たら、頭をばしっと叩かれた。多分、ダイキの仕業。
 重たかったけど……、痛かったけど……、何だか心地よくて、ちょっと落ち着く。

「どうぞお掛け下さい。」
「えぇ、失礼します。」
(始まっちゃった……)
 壁の向こうから、お母さんと矢口先生の声が聞こえてくる。

「ご足労頂き有難うございます。
 早速ですが、本題に入らせて頂きますね。本日、憲太君の成績について、緊急の学年会議を行いました。各教師達に、憲太君の成績評価が妥当であったか否かを確かめるためです。」
(僕は、成績なんてどうでもいいっ!)
(妥当だと思っているっ!)

「それで? 見直してもらえるんでしょうね?」
 お母さんの口調は、既にきつくなっている。疑問文なのは形だけで、否定することを許さないような言い方。

「単刀直入に申し上げますが……、成績を修正するようなことはいたしません。」
バンッ!!
「何ですってっ?! 一体どうしてよっ!!」
(やめてっ、そんなこと聞かないでっ!!)
 何かを叩く音の後に、お母さんの怒鳴り声。多分いつものように、机を叩いたんだと思う。お母さんが凄く怒っている証拠。
(恐いっ、恐いっ、恐いよっ!)

「私を含め、教師達は皆、この成績評価は妥当だと申しております。」
「何が妥当だって言うのよっ! 納得出来ないっ!! あの子は何でも出来る子なのよっ?! テストだって満点近くとったって聞いたわ! それに提出物も何も問題ないって言ってたわ! あの子だって納得出来ないって言って、泣いてたわっ!」
(違うっ! 僕は違うっ!!)
(何でも出来る子なんかじゃっ、ないっ!)
(喋ることさえ出来ないっ!)
(納得ならちゃんとしているっ!)
(泣いたのは、恐いからだっ!)
――お母さんは分かっていない。お母さんは、僕を知らない。

 僕は真っ赤になって、下を向いた。こんなことを、仲間に聞かれているのかと思うと、恥ずかしかった。

「何でも出来る子、ですか。お母さん、原因は全教科同じです。」
(やめてっ! 言わないでっ!!)
「何だって言うのよっ?!」
(やめてっ! 聞かないでっ!!)

「問題は――、発表です。」
(やめてっ! お願いっ、やめてよっ!!)

「そんなはずないわっ!! あの子は出来る時はしていると言っていたわっ! それが嘘だったとでもっ?! あの子が何も発表しないとでも言うのっ?!」
(やめてっ! お願いだからっ!)
(嘘なんだっ! 僕は、喋ることさえ出来ないんだっ!)


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あきゅろす。
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