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silent child



*****


 午後3時――。
 僕はスタジオに居た。仲間と一緒に。

 聞こえるのは――、noisy boysの音。

 でも――、
「あっ。」
(また、やっちゃった……)
 さっきから僕は失敗ばかり。
 曲が始まったことに気付けなくて、一人だけ入れなかったり……、繰り返しを忘れて、一人だけ違うところを演奏し始めちゃったり……。
 自分でも酷すぎると思う。

「おいっ、くそっ!! またかよっ!!」
 終に、ダイキに怒鳴られた。
 ダイキにしては、我慢してくれた方なんだと思う。
 目を吊り上げているダイキを、どこか人事のようにぼんやりと見ていたら、ダイキが急に立ち上がった。

「おいおい、大輝ぃー?」
「ダイキッ、落ち着けって。」
 ダイキを宥めようとする二人の声が聞こえる。それでもお構いなしにダイキは僕のところまでやってきた。

 そして、僕の胸倉を掴んだ。
「いい加減にしろよっ、テメェー!!」
 シャツが引っ張られて、首が苦しい。
 僕はつま先立ちになって、必死に呼吸をしやすい姿勢をとる。

「さっきからよぉ、ちっとも集中出来てねぇじゃねかよっ!! テメェは別のことに気を取られてんだろぉがっ!!」
「……っ。」
 ダイキの言っていることは正しい。
 僕はさっきから時間が気になって仕方がない。スタジオ内にある時計ばかりに目がいってしまう。

 だって――、午後4時になったら、お母さんが学校に乗り込んでいくって知っているから。
 だって――、あと数時間後には、本当の僕がお母さんにバレてしまうかもしれないから。

(恐いっ、恐いよっ! 恐いんだっ!!)
 大好きなギターを弾いても、大好きな仲間と演奏しても、恐怖が消えない。

「やる気がねぇんならっ、出てけっ!! 居ても邪魔なだけだっ!!」
(……やだっ! 出て行きたく……、ないっ!)

 集中出来ない僕が、ここに居ると迷惑だって分かっている。
 それでも――、僕が僕でいられるこの場所に居たいんだ。

(お願いっ、ここにいさせてっ!)
「ごめんなさい……っ。」
 追い出されるのが嫌で、必死に6文字を搾り出した。
 ダイキの手の力が緩まって、呼吸がしやすくなる。僕は一回なんかじゃ足りないって分かっていたから、何度も何度も繰り返した。

「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!!」
(恐いっ! 恐いよっ!)
「ごめんなさいっ!! ごめんなさいっ!!」
(出て行きたくないっ! 一緒に居たいっ!)
 気付けば――、僕は泣いていた。
 仲間の前で……、思いっきり。
 6文字を、ずっと、泣き叫び続けていた。

「憲太ー?大丈夫かー?」
 大和はやっぱり苦笑していた。


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あきゅろす。
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