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silent child


 結局――、お母さんは明日学校に行って、直接矢口先生から話を聞くことになった。

「確り抗議してくるわ。こんな成績表は納得いかない。やり直しさせてやるんだから。」
(僕は成績なんて、どうでもいいっ!)
(抗議なんかやめてっ!!)
 お母さんはその後も、永遠と先生達の悪口を言い続けていた。
 お母さんにそんなことさせているのは、僕のせいなんだって知っていた。

 僕はそんなの聞いていたくなくて、自分の部屋に逃げた。

 考えれば、考える程恐くなってくる。
――明日、矢口先生は何を言うつもりなの?

 この恐怖から逃げ出したくて、僕は相棒を引っ張り出した。そしてアンプにシールドとヘッドホンを繋げる。

(恐いっ! 恐いっ! 恐いよっ!)
 僕が選んだピックは――、“がんばれ”。マリオからもらったピック。

 弦を弾く度に、マリオの声が聞こえてくる気がする。
――憲太、がんばれ!
 マリオが僕を励ましてくれている気がする。

(明日が、恐いっ!)
 ずっと、今日だったらいいのに……。
 明日になったら、お母さんと矢口先生が対面しちゃう。何かが起こってしまうことは間違いないんだから。

 矢口先生は――、言ってしまう気がする。
 僕が、必死に隠してきたことを。

 だって――、矢口先生は僕に、人一倍厳しいんだ。

 3年生始めにあった修学旅行もそう。
 僕は、今までの経験から大和と一緒の班になれるものだと思っていた。
 なのに……、矢口先生は許さなかった。
 班決めは自由だったはずなのに、「お前等は別々にしなさい。」と言われ、無理やり離された。
 大和と一緒に居られたのは、全体行動と個人行動と、ホテルでだけ。班別行動の時間全部、いい思い出なんかちっともない。

 二人で廊下を歩いている時だってそう。
 僕と大和が腕くんでいたりすると、必ずやめさせられる。「ベタベタするんじゃない。」って言って、遠くに離される。

 日直の時だってそう。
 僕が喋れなかったから、朝の会が始まらなくて、うちのクラスだけ騒ぎ始めちゃった。
 後から来た矢口先生は凄く怒った。「なんでうちのクラスだけ煩いんだ!」って。
 先生が来て助かったって思ったけど、そうじゃなかった。先生が一番怒ったのは、僕に対してだった。「お前が喋らないから、皆が騒ぐんだっ!」って。また皆が騒ぎ出しても、先生は注意してくれなかった。僕は真っ赤になったまま、1時間目まで前に立ったままだった。

――そんな厳しい矢口先生が、僕のことを言わないはずがない。

(恐いっ! 明日が恐いっ!)
(嫌いっ! 矢口先生なんか、嫌いっ!)
 弦を弾いて弾いて、弾きまくった。

――がんばれ、僕。
 自分で自分を励ますために……。


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