silent child
4
結局――、お母さんは明日学校に行って、直接矢口先生から話を聞くことになった。
「確り抗議してくるわ。こんな成績表は納得いかない。やり直しさせてやるんだから。」
(僕は成績なんて、どうでもいいっ!)
(抗議なんかやめてっ!!)
お母さんはその後も、永遠と先生達の悪口を言い続けていた。
お母さんにそんなことさせているのは、僕のせいなんだって知っていた。
僕はそんなの聞いていたくなくて、自分の部屋に逃げた。
考えれば、考える程恐くなってくる。
――明日、矢口先生は何を言うつもりなの?
この恐怖から逃げ出したくて、僕は相棒を引っ張り出した。そしてアンプにシールドとヘッドホンを繋げる。
(恐いっ! 恐いっ! 恐いよっ!)
僕が選んだピックは――、“がんばれ”。マリオからもらったピック。
弦を弾く度に、マリオの声が聞こえてくる気がする。
――憲太、がんばれ!
マリオが僕を励ましてくれている気がする。
(明日が、恐いっ!)
ずっと、今日だったらいいのに……。
明日になったら、お母さんと矢口先生が対面しちゃう。何かが起こってしまうことは間違いないんだから。
矢口先生は――、言ってしまう気がする。
僕が、必死に隠してきたことを。
だって――、矢口先生は僕に、人一倍厳しいんだ。
3年生始めにあった修学旅行もそう。
僕は、今までの経験から大和と一緒の班になれるものだと思っていた。
なのに……、矢口先生は許さなかった。
班決めは自由だったはずなのに、「お前等は別々にしなさい。」と言われ、無理やり離された。
大和と一緒に居られたのは、全体行動と個人行動と、ホテルでだけ。班別行動の時間全部、いい思い出なんかちっともない。
二人で廊下を歩いている時だってそう。
僕と大和が腕くんでいたりすると、必ずやめさせられる。「ベタベタするんじゃない。」って言って、遠くに離される。
日直の時だってそう。
僕が喋れなかったから、朝の会が始まらなくて、うちのクラスだけ騒ぎ始めちゃった。
後から来た矢口先生は凄く怒った。「なんでうちのクラスだけ煩いんだ!」って。
先生が来て助かったって思ったけど、そうじゃなかった。先生が一番怒ったのは、僕に対してだった。「お前が喋らないから、皆が騒ぐんだっ!」って。また皆が騒ぎ出しても、先生は注意してくれなかった。僕は真っ赤になったまま、1時間目まで前に立ったままだった。
――そんな厳しい矢口先生が、僕のことを言わないはずがない。
(恐いっ! 明日が恐いっ!)
(嫌いっ! 矢口先生なんか、嫌いっ!)
弦を弾いて弾いて、弾きまくった。
――がんばれ、僕。
自分で自分を励ますために……。
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