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silent child


「憲太も納得出来ないでしょ?こんな低い評価なんて。」
(違うっ! 僕は、仕方ないって思ってるっ!)
「……うん。」

「憲太が大人しい子だと思って、舐められているんだわ。文句なんて言えないと思っているのよ。」
(もういいよっ! やめてっ!)
「……うん。」

「こういう人達はね、黙っていたら調子に乗るのよ。抗議してやるわ!」
(やめてっ! 先生達は、悪くないっ!)
「……っ。」

 僕には、お母さんの暴走を止めることなんて出来なかった。
 お母さんは連絡網を引っ張り出してきて、電話をかけ始める。
(やめてっ! そんなこと、しないでっ!)

 電話先は――、矢口先生。
 僕の大嫌いな矢口先生。
 今までの先生とはちょっと違う矢口先生。

(矢口先生だけはっ、やめてっ!)
 矢口先生は、他の先生達とは違う。
 今まで先生達が言わなかったことも、僕に平気でずばずば言うような先生。
 だから――、お母さんにも平気で言っちゃうかもしれない。今まで濁されてきた言葉を、ストレートに言っちゃうかもしれない。


「もしもし? 矢口先生ですか?」
(やめてっ! お願いっ! やめてよっ!)
 心の中では必死に止める僕。
 実際は、足を崩せずに正座したまま、お母さんを見つめていた。

「何か? じゃないですよっ! 何なんですかっ、あの成績表はっ! 特にアナタの英語っ、憲太に対する嫌がらせとしか思えませんよっ!」
(やめてっ! そんなこと言わないでっ!)
 ここからは、お母さんの声しか聞こえない。
 必死に聞き耳をたてるけど、矢口先生の声は聞こえない。

「なっ! うちの子に限って、そんなことは有りませんよっ!」
(何っ? 何を言ったのっ?)
(やめてっ! お願いだから言わないでっ!)
 僕は、凄く恐かった。あまりの恐さに、涙が出そうになってきて、必死に耐える。
 もしかしたら、矢口先生の口から「アナタの子は、喋れない子なんです。」ってセリフが飛び出てしまっているかもしれないから。

――そんなことお母さんに知られちゃったら、僕はこれからどうしたらいいの?

 僕には、成績なんかどうでもよかった。
 お母さんに“喋れない子”だとバレてしまうことが、何よりも恐かった。
 お母さんを失望させてしまうことが、何よりも恐かった。

 もし――、そんなことが起こっちゃったとしたら……、自分がどうなっちゃうのかが分からない。今の僕で居られなくなっちゃうかもしれない。
――恐いっ。恐いよっ! 恐いよっ!!
 耐えられなくて、涙が一粒頬を伝った。

「ほらみなさいっ! うちの子なんて、先生達の仕打ちの酷さに泣いちゃっているわっ! あぁ、可哀相にっ!」
(違うっ! 僕は、恐くて泣いているんだっ!)


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